今季主将の広島・佐々木翔 母や祖父母の愛情で育まれた人間性

 愛情に満ちた家庭で育ったのに、少年時代のJ1広島・DF佐々木翔は、たった一つの存在を欲した。

 父親である。

 佐々木の父はイギリスにいた。ただ、生まれて間もなく母とともに日本に戻ったため、イギリス人の父の記憶はほぼないに等しかった。

 佐々木少年は幸せだった。母だけでなく、祖父も祖母もいて、全ての愛情が自分に注がれていたからだ。だからなのか、彼は「クラスで一番、うるさいヤツだった」(佐々木)。

 しかし小学3年生の頃、佐々木はイギリスへと渡る決心をする。

 父に会いたい。

 想いが1度芽生えると、もう止まらなくなった。母親に懇願し、許しをもらい、彼は父の国を訪れる。歓迎してくれた父と約1カ月、イギリスで過ごした。

 父はかつてポーツマスの育成組織で育ち、そこからプロになった。

「家にあった父の写真にはトロフィーやメダルがぎっしり。活躍していたんでしょうね」

 9歳の時に訪れた父の国で少年が何を感じたか。確かなことは、彼が1カ月で母の国・日本へ戻ったということ。それからもう2度と、父に会いたいと言ったことはない。いわゆる「母子家庭」という環境に対して、背を向けたこともない。

 決してまっすぐに、プロサッカー選手になれたわけではない。道を踏み外しそうになったこともある。家庭の経済状態を考え、サッカーで未来を創ることを諦めたこともある。だが、彼はそこで、愛情に救われる。例えば高校2年の時。専門学校に進学して自動車整備工になろうとした彼を、母が押しとどめた。

「お金は準備している。大学に行きなさい」

 あれから13年。佐々木翔はサンフレッチェ広島のキャプテンに指名された。「本当に驚いた」と戸惑いを隠せなかった日本代表DF。しかし、母や祖父母の愛情に包まれて苦境を跳ね返してきた彼の生き様が、豊かな人間性を醸成させたのだろう。人を和ませる笑顔と言葉、仕事への厳しさ、闘志、知性。新時代を迎えた広島の主将には、佐々木翔こそふさわしい。(紫熊倶楽部・中野和也)

 ◆佐々木 翔(ささき・しょう)1989年10月2日生まれ。神奈川県座間市出身。ポジションはDF。176センチ、70キロ。背番号19。城山高から神奈川大を経て12年に甲府に入団。15年に広島に完全移籍した。16年3月に右ひざ前十字靱帯(じんたい)断裂の重傷を負い、18年に復帰。同年には日本代表にも選出された。今季は広島の主将を務める。

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