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お酒は飲んでない!焼酎とビールだけや

 診療室にはさまざまな患者さんが訪れます
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 「町医者の独り言・第4回」

 日々診療していますと、本当にいろんな人に接します。以前、こんなことがあったんです。

 アルコールによって肝臓に障害をきたした患者さんがおられました。その患者さんに「お酒はやめましょうね。これ以上の肝臓への負担は命にかかわりますからね」とアドバイスをしました。その患者さんは男気のある人で、すぐに「よっしゃ、わかった!きょうからお酒は一切飲まへんで!約束する!」と応じてくれたのです。私は少しホッとして、診察室を立ち去るその人の後ろ姿を安堵の気持ちをもって見送っていました。

 ところが、しばらくして患者さんの採血をすると、肝機能の改善は認められず、それどころか前よりも悪くなっていました。何より、対面しているとアルコール臭がするのです。正直、残念な気持ちになり、思い切ってその人に「お酒はやめて頂いていますか?」と質問しました。すると、「先生な、俺はな、あれから一切お酒は口にしてへん!してるのは、焼酎とビールだけや!」と…。

 なるほどです。酒飲みに悪い人はいないと言いますが、その時の患者さんの表情からはとてもウソを言っているように思えなくて、一瞬がく然とはしましたが、微笑ましく思ってしまったのを覚えています。私も酒は嫌いな方ではないので、気持ちはよくわかるのですが「それは違いますよ」と再度、詳しく“お酒”について説明しました。

 その患者さん、その後も時々アルコール臭はするのですが、肝機能が改善しているのは確認できているので、少し安心しています。医療というのはその人の私生活、思想にまである程度は入っていかないと解決できないことが多いのです。だからといって、その人の私生活を土足で踏みにじることはできませんので、“一線”を超えないようにしながら、しっかり注意して話を聞かなければなりません。

 医者は本当に問診ができれば、それで診察のほとんどが終わる…とよく言われるように、治療に必要な情報を限られた時間で聞き出し、その見えない部分を探り出すことが大切だと考えています。第1回のコラムにも書きましたが、女性の“はじらい”が診察の妨げになっていたのも、その典型例ですね。うちの診察室に足を運んでくれる人と様々なやり取りを重ねていくことで、未熟な私も少しずつ成長させてもらっているんです。

 ◆筆者プロフィール

 谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。1969年、大阪府生まれ。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。

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