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川崎が円形脱毛症と引き換えに得たもの

2013年10月5日

 チームのムードメーカー役を担った川崎宗則

 チームのムードメーカー役を担った川崎宗則

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 「なんかできてるよ!」

 夫人から後頭部の異変を指摘されたのは6月から7月にかけてのことだったという。移籍1年目の昨季は一度もマイナー落ちすることなく、シーズンを過ごした。しかし、マ軍との契約更新はかなわず、退団後は移籍先がなかなか見つかず、悶々とした日々を送った。ようやくブ軍とマイナー契約で合意したのは3月中旬になってから。開幕は3Aで迎えるも、正遊撃手のレイエスの戦線離脱により、4月13日にはメジャーの舞台に立っていた。

 レイエスの復帰に伴い、6月24日に一旦、マイナーに落ちたが、わずか2日でメジャーに復帰。7月下旬に三たび、マイナー行きを命じられたが、1カ月後にメジャー再々昇格を果たした。

 「これは環境の変化によるものだと思う。今年はマイナーとメジャーを行ったり来たりしてるでしょ。生活環境が全然違う。忙しいのは嫌いじゃないけど…。きっと環境でしょうね」

 新しい環境、新しいチームメート、そして、厳しいサバイバルゲーム。しかも通訳はいない。「いろいろ大変でしたよ」と言ってから川崎は「いやいや、大したことないです」と言い直したが、どっちが本音かは確認するまでもない。

 「そりゃ、人間だから繊細ですよ」

 川崎はそう言ってまた「ははは」と笑ったが、僕には笑うことができなかった。

 持ち前の明るいキャラクターと闘志あふれるプレーで地元トロントでの人気は絶大だった。チームのムードメーカーであることはだれもが認めるところ。テレビカメラの前でコミカルなダンスや歌声を披露したり、外国人選手に臆することなく日本語で話し掛けたり、そういった面ばかりが注目されていた。

 だから、川崎が本当に円形脱毛症だったことを知ったとき、涙が出そうになった。

 川崎がもつ繊細さ。それは、試合前の準備を見れば、よくわかる。

 ある日の試合では、プレーボール4時間前にだれもいないフィールドに出て、外野フェンスに向かってボールを投げていた。地面に並べたボールを素早く拾い上げ、次々と投げる。よく見れば、右肘の角度を微妙に変えている。併殺時の走者の動きを想定してやっているのだという。

 クラブハウスに戻れば、ストレッチポールを使って入念なストレッチ。全体練習では、フリー打撃の順番が来るまで二塁と遊撃、2つの守備位置でノックを受ける。正面、三遊間、二遊間、早いゴロ、遅いゴロ、逆シングル、ノーステップ、…。さまざまなシチュエーションを想定し、コーチに打球の方向をリクエストする。そんな細やかな練習をしている選手は、少なくともブ軍の内野陣の中にはいない。終われば必ず、帽子を取って「ありがとうございました!」と頭を下げる。もちろん、日本語で、だ。

 メジャー2年目、激動のシーズンが終わった。

 「乗り切れたのは、自分がいつもグラウンドに立つ状況、それをモチベーションにしていたからですね。そのモチベーションが下がって野球以外のことを考え出したら、野球はうまくならない。楽しく野球をするためにはグラウンドがどこであっても変わらない。それはチームが決まってなくても同じ。グラウンドで練習するのはうまくなるため。その気持ちって大事なんだなあって思いました。それを再確認できた」

 8月16日、長男・逸将(いっしょう)君が誕生し、父親になった。川崎の体が以前より大きく見えたのは、日々の鍛練だけが理由ではないと思った。(デイリースポーツ・小林信行)

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