尾上松也 新・金田一への覚悟「新しいものを作り続けていくこと自体が僕らに課せられた伝統」 映画「八つ墓村」主演 

 探偵小説の大家・横溝正史の伝説的ミステリーに新解釈やオリジナル要素を加え、令和版として再構築した映画「八つ墓村」が話題だ。主人公の金田一耕助を演じているのが、歌舞伎俳優の尾上松也(41)。「新たな金田一像」を求めて指名された梨園(りえん)のプリンスは、これまで渥美清さん、石坂浩二、豊川悦司ら錚々(そうそう)たる俳優陣が演じてきた名探偵にどのように向き合ったのか-。冷静な語りの中に覚悟がにじんだ。

 落ち武者の祟(たた)りが伝えられる山村を舞台に、連続殺人が描かれる「八つ墓村」。幾度も映像化されてきた名作を現代版としてよみがえらせるにあたり、製作陣は「まったく新しい金田一耕助を作りたい!」と松也を指名した。

 本人を前にすると、重低音の声で淡々と質問に答えるのだが、長髪に大きなガタイと顔の圧が相まって迫力満点。オファーを受けた当時について、「『本当に自分でいいのかな?』といった気持ちにはなったので少し悩みましたけど、『八つ墓村』で金田一をさせていただける機会は、誰にでも訪れることではない。挑戦したいという気持ちが勝ったという感じですかね」と腹をくくり、新しい金田一像を模索したという。

 清水祟監督との話し合いで決まったのは、「これまでのイメージに固執しない」こと。ボサボサ髪によれた袴(はかま)姿の変わり者といった従来の金田一像から一転、今作では小綺麗なコートをまとうなどスタイリッシュな印象すら受ける。

 「やっぱり服装がヒントになりました。洋装で、こだわりのある素材や色合い。トレンドやSNSに無頓着なわけがなくて、ファッション雑誌を読んでる可能性さえある。服に無頓着なイメージだったので、どんどん、僕が見てきた金田一像とかけ離れていく感覚でした。非常に常識的な考え方を持った変人というイメージです」

 松也本人の人の耳を触るのが好きな耳フェチを投影し、金田一が思考する際に自分の耳を触る癖を採用。あえて過去作は見返さず、ひょうひょうとしていて人間臭い、新たな金田一耕助を形作っていった。

 初めて歌舞伎以外を演出した舞台「デカ×ホシ」が18日に終幕するなど、ジャンルを越境しての活躍が目立つ。歌舞伎界への還元と表現者としての拡張を両輪に、「未知の体験をすることで役者としてもクリエーターとしても、間違いなく幅が広がる。できるだけ臆せずに挑戦して、それが結果的に歌舞伎に還元できたらいいかなという感じですかね」と目指す視線の先は大きい。

 最近、インプットのために渡米し、ブロードウェイでエンタメ作品を浴びるように見たという。「グレート・ギャツビー」「ザ・ロスト・ボーイズ」「メイビー・ハッピー・エンディング」の3作品を挙げ、「アメリカはやっぱりすごかったですね。お金をかけた上でちゃんと練っている。最新技術は使いつつ、アナログの面白さが損なわれていない。十何本見たんですけど、これがトップスリーでした」とうなずいた。

 伝説の名探偵を換骨奪胎したように、挑戦し続けていくこと自体が生まれ持った使命でもある。「根本的にアニメでも小説でもどんなジャンルでも、これを歌舞伎の作品としてやったら面白そうだなと考えるのがベースです。『忠臣蔵』がもともとは新作歌舞伎だったように、新しいものを作り続けていくこと自体が僕らに課せられた伝統のひとつなので。逆にそれがないと(伝統芸能は)こんなに長く続けられないんですよね」。歌舞伎界の伝統を最新系に更新し、軽やかにジャンルを超越していく男の言葉は力強かった。

 ◆尾上松也(おのえ・まつや)1985年1月30日生まれ。東京都出身。屋号は音羽屋。父は六代目尾上松助。5歳のときに初舞台。2014年のコクーン歌舞伎「三人吉三」でお坊吉三に抜てきされ、バラエティー番組にも起用されるなど知名度が上昇。同年のNHK紅白歌合戦でゲスト審査員を務めた。23年の新作歌舞伎「刀剣乱舞」で初演出。他の出演作に大河ドラマ「おんな城主 直虎」「鎌倉殿の13人」や映画「モアナと伝説の海」の吹き替え声優など。

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