ヤクルトの主砲・村上 バットに込められた強い信念-職人・名和さんが明かした裏側
「ヤクルト1-0DeNA」(25日、神宮球場)
とんでもない成長速度で、5年間を駆け抜けてきた。幾度となく球史に名を刻んできたヤクルト・村上が、今季最大のパフォーマンスはNPB日本選手最多記録となる55本塁打だ。飛躍の秘密を探るべく、ルーキー時代から主砲のバットを手がけるミズノテクニクスの職人・名和民夫(55)さんを直撃した。
今年5月のことだ。現在の好成績を残すバットとの出会いを果たす。ヘッド部分を大きくくり抜き、グリップエンドはこれまでと異なるゆるやかな曲線のタイカッブ型。形に少し変化を加えた中で、重さはこれまでと同じ880グラムから900グラムの幅を持たせているという。機能を尋ねると、名和さんからは興味深い返答を得た。
「元の材料の比重を調整することで、くり抜いていても同じ重量にすることは可能です。ヘッドをくり抜くことで、打芯の位置がグリップよりに動く。1センチから1センチ5ミリくらいだけなんだけど、それが手元の方にくることによって、手元まで呼び込んで打てる。長くボールを見られる分だけ、見極めもできるようになりますね」
このバットにたどり着くまでに、さまざまな変化を経てきた。中でも運命的な出会いとなったのは、2年目の春季キャンプ直前。ルーキーイヤーから4種類の型に挑戦するなど、じっくり〝相棒〟を探す日々。そんな中で、オフには新たに3種類の型のバットを追加し、青木との米国自主トレに初めて参加した。すると、帰ってくるや否や「これと同じバットがいいです」。そこから3年間、共に歩むことになる〝青木バット〟との出会いだった。
選んだのは、少し打球部とグリップが太めのアベレージヒッターが好むバットだ。重さも880グラムから900グラムの平均値。名和さんは「ヒットを打つことが目的」としながらも、「長距離砲のバットも、結局は芯を食わないと飛ばないですからね」と説明した。
貪欲さが、村上の最大の武器でもある。昨季、6年ぶりの優勝を果たすと、さらなる成長を求めて挑戦を決断。エンゼルス・大谷のバットが、名和さんに届けられた。「1試合目から試したい」。CS・ファイナルSに間に合わせるため、数日間かけて急ピッチで作製。これまでとは形状が全く違う、「急に太くなるような」と、いわばソフトボールで使用するようなバットにも果敢にトライした。
名和さんは、初めて会った日のことを鮮明に覚えている。19年1月、岐阜県・養老町にあるミズノのバット工場で、「自分はこうグリップを握りたい、ここで打ちたい。そうするためにはどういう形がいいですか?」
18歳の若さでバットへの明確なイメージを持つ村上に、名和さんはイメージを重ねていた。「松井秀喜さんも形に対して、はっきりと意見を言う。自分の理想とするバットがビジョンとしてある。そこが村上選手と近い部分ですね」。数々の金字塔を打ち立ててきた主砲のバットには強い信念と、支えてくれる職人の思いが込められている。