デイリースポーツ評論家の山下智茂氏（７１）＝星稜総監督＝が高校野球の未来を考える企画の第７弾は、沖縄尚学のエースとして１９９９年センバツで沖縄勢悲願の甲子園初優勝を果たし、母校の監督として２００８年センバツ優勝を成し遂げた比嘉公也監督（３４）。近年の沖縄勢の躍進は「沖縄に足りなかったもの」を見つけて進化した柔軟性が鍵だった。

　　◇　　◇

　－招待試合で刺激を受けることも。

　比嘉公也監督（以下、比嘉）「あります。僕らが優勝した時に年配の方によく聞かれたのは、（自分たちは）県外校と試合する前にコンプレックスで負けていたけど、そんなことはなかったの？と。僕らは先輩方の反省を踏まえて招待試合などがあったので、コンプレックスというものはなかった。県外のチームとどんどん試合できるようになったのも、レベルが上がった理由だと思う。（毎年６月の）招待試合（の参加校）は県内で好成績をとった学校が出られます」

　山下智茂氏（以下、山下）「来年は（自分たちも）という気持ちになるよね。私は昭和５１年夏に豊見城と対戦した。向こうは赤嶺賢勇投手（元巨人）でうちは小松辰夫（元中日）。指笛の応援がすごくてね。勝ったけど、沖縄のチームはすごいなって。小さいけど運動能力が高いんですよね」

　比嘉「どうしてかよく聞かれますが、僕もよくわからないです。僕らの学校は那覇市内ですが那覇出身が少ない。自然がまだ残っているところで生まれた子が圧倒的に多いので、運動能力に若干差があると思います」

　－沖縄の特性を生かす部分は？

　比嘉「僕は県外の子と対戦しても身体能力は向こうの方が高いと思うんです。パワーとか。ただ、足の速さはチーム平均だと沖縄の方があるのかな。足を使うことは県内はどのチームも多い。足が使えるところが勝ち上がっていく。足があってセーフティーとかが多いので、三塁手にそういう小回りが利く、判断が利く子を置くのは重要だと思います」

　山下「３、４年前に亜大のキャンプで会ったでしょ？あの時に、選手が学ぶ姿勢がすごいどん欲でね。指導がすごいなと思った」

　比嘉「東浜（現ソフトバンク）と嶺井（現ＤｅＮＡ）がいる時ですね。県内では学べない指導や練習があるはずだから、いい悪いは別にして持ち帰ってやってみる価値はあるという話はします。県外の大学やその他で学んで沖縄で指導者になった人数が増えたのも、沖縄が強くなった理由だという方がいて、僕もそう思います」

　山下「沖縄の選手が大学で活躍して、帰ってきて母校で教えるのも効果があるんじゃない。先生のところはいい指導者の大学に行っているよね」

　比嘉「最初に行った子たちがいいぞと後輩に言って、それが自然に続いていると思います。オフに帰ってきて、こういうことをしていると話もしてくれるし、キャッチボールとかロングティーとかを見ているだけでも刺激になってます」

　山下「僕は監督３年目で選手５をと東都と東京六大学の大学に一人ずつバラバラに入れたんです。別々だけど我慢して学んでくれ、頼むぞって。彼らが帰ってきて強くなりましたね」

　－学ぼうという意識は他県より強い。

　比嘉「それはあります。模倣だと思います。僕の指導もまねです。これいいと、見て感じてやってみる。そういう欲は間違いなくあると思います」

　山下「春の甲子園で２回優勝だけど、センバツは寒いでしょう。よく勝てるね」

　比嘉「試合をやっている時はそんなに寒くないんですが、指先の感覚は違いましたね。カイロは背中に張っていました。沖縄では（センバツ対策として）氷水に手を突っ込んでかじかんだ状態でやるところもあると聞いたことはあります。僕らはセンバツが決まると朝４時半とか５時とか、気温が低い、早い時間が県内でできる唯一の寒さ対策。東浜の時に早い時間に集合時間をかけた時は、みんなノースリーブを着ていましたね」

　－裁監督（沖縄水産など）らから沖縄の高校野球を継承する意識は？

　比嘉「僕が指導者になってすぐ裁先生はお亡くなりになったので指導者としての会話はしたことないんです。ただ、いち早くウエートトレを取り入れたとか、そういうことは県外で学んだことだと思います。（恩師の）金城先生にしろ、我喜屋監督（興南）にしろ、外で学んだものを持ち帰ってきて県内の子たちにミックスさせながらチームづくりをしたんじゃないかと思います」

　山下「その方たちに言えることは鉄の意志を持っている。こうと決めたら絶対にやらせる。裁監督とはよく話したけど、沖縄人としての鉄の意志を感じたね」（４に続く）