山下氏、沖縄尚学・比嘉監督対談【５】
デイリースポーツ評論家の山下智茂氏（７１）＝星稜総監督＝が高校野球の未来を考える企画の第７弾は、沖縄尚学のエースとして１９９９年センバツで沖縄勢悲願の甲子園初優勝を果たし、母校の監督として２００８年センバツ優勝を成し遂げた比嘉公也監督（３４）。近年の沖縄勢の躍進は「沖縄に足りなかったもの」を見つけて進化した柔軟性が鍵だった。
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－指導者としての悩みは？
比嘉公也監督（以下、比嘉）「放っておくとできない子が増えているのかなとは思います。自立してほしい。でも任せることができる行動を取れない生徒が年々増えていると思います。自分で工夫してでも何とかしようというのはないですね」
－自身のお子さんは。
比嘉「女の子２人です。家に帰ってプロ野球をつければ批判されます。土日も野球、家でも野球って（笑）」
山下智茂氏（以下、山下）「たまに家族サービスしようと飯を食いに行くと、監督の娘だって言われて、次から行かないとなる。だから、どこにも連れて行かなかったね」
比嘉「うちの娘も学校で言われることあるみたいですね」
山下「勝っているといいけど、負けるとお前のおやじのせいだと言われる。他の監督もみんなそういう経験がある。上昇していくとね」
比嘉「それは自分はまったくないですね」
山下「沖縄はいいね。穏やかで」
比嘉「沖縄あるあるで、県内で車のクラクションを鳴らすのは県外の人ですね」
（守備走塁に重点を置いた練習を見ながら）
山下「いつもこういうメニュー？」
比嘉「ランダムに挟殺を回す練習と、一、三塁の重盗確認は基本的に毎日します。走者の距離感とかが変わってくるので、その中で本当にミスをしない子を探していきます」
山下「珍しいね。普通は（練習開始から）すぐにノックかバッティングですよね。こういう細かいプレーをやるチームはない」
比嘉「毎日やっているから、外野手がランナーになって挟まっちゃうと逃げるのが上手なんです」
比嘉「質問なんですが、甲子園には、こういう時に行けるとわかる時が来るんでしょうか。僕は、今年は行けるという時は行けないことが多いです」
山下「強い時には行けないし、行けないと思う時には行けるよね。監督が油断しているのかな。例えば、練習でキャッチボールだけして終わる時がある。全員が塁間のボール回しをして、エラーなしで終わるぞというような練習をやると、チームワークができてくる。そこまで我慢できるかどうかはあるけど」
比嘉「ノーエラー１０本とかやってもなかなか終われず、７本で妥協したくなります」
山下「イメージすることは大事だよね。僕は、甲子園に出る前に、宿泊先のホテルの部屋番号から部屋を出て練習するところまでイメージさせる」
比嘉「えっ、そこまでですか？」
山下「練習試合で相手がノックをしている間に、全員にそれを見て１番から９番までオーダーを書けとかね。ノックを見ていたらわかるはずだと。観察して相手の癖とか長所とかを見抜けるようになると、野球がわかってくる」
比嘉「観察力は大事ですね。例えば練習試合でＳＢＯ（の掲示）が出ないところがある。カウントがわからず転んだりぶつかったり。逆にＳＢＯなしで練習試合をやろうかとも思ったこともあります。ところで、先生は指導方針を大きく変えた時期はありますか？」
山下「あるよ。最初はガンガンやっていて（選手の練習）ボイコットにあったしね。でも、箕島との延長十八回で勉強せないかんと感じてね。待つ、信じる、許すことが僕に足りないところだと思った。勝つ野球より育てる野球をしようとね。１０、２０年後のいい社会人に育てようと。そうしたら逆に勝ち始めたんだね」
比嘉「僕はそういうものがないんです。逆にずっと変えなかったものはありますか」
山下「厳しさやね。胸元へのキャッチボールとかトスバッティングとか野球の技術的なこともあるけど、マナーとか社会人としてとか。選手の心に種をまくことが大事。あと『美点凝視』だね。１点だけほめると生徒は先生を認める。そして、育つ。先生の心も生徒の心も余裕ができるからね」
比嘉「僕もほめる技術とか本を読んで勉強はするんですが（できていないことは）自分でも自覚しています」
－監督生活で学んだことは。
「特に勉強になった経験は（２０１４年）Ｕ－１８のタイ遠征（コーチとして帯同）で高橋光成（前橋育英－西武）や岡本和真（智弁学園－巨人）らがいました。彼らは言われなくても修正方法を知っている。状態が悪く大振りしていると課題をどう修正するかわかる。うちはそれがわからず練習している子が多い。さらに上の選手がいるとよくわかりました」
山下「ほめ方がいいと修正能力を持つようになるね。私は２３歳で監督になって、だんだんほめられるようになっていったよ。３８年やらせてもらってね」
比嘉「３８年！僕は１１年があっと言う間でした」（終わり）
