デイリースポーツ評論家の山下智茂氏（７１）＝星稜総監督＝が高校野球の未来を考える企画の第７弾は、沖縄尚学のエースとして１９９９年センバツで沖縄勢悲願の甲子園初優勝を果たし、母校の監督として２００８年センバツ優勝を成し遂げた比嘉公也監督（３４）。近年の沖縄勢の躍進は「沖縄に足りなかったもの」を見つけて進化した柔軟性が鍵だった。

　　◇　　◇

　山下智茂氏（以下、山下）「若い監督は選手に遠慮してあまり言わないものだけど、ガンガン言って選手を引っ張っている。甲子園では冷静で『静』。おとなしいイメージ。しかし、練習では『動』だね。二重人格じゃないの（笑）。でも、強い心を持っていることがよくわかった。だから優勝するのだとも思う」

　比嘉公也監督（以下、比嘉）「ありがとうございます」

　山下「練習は非常に実戦的で合理的だね。一走を置いて右中間、左中間へのノックは三塁で殺すギリギリのタイミング。間に合わなければカットで二塁で殺す。考えながらやっているノックだった。走者二、三塁からタッチアップ、カット、三塁で殺すまでが一連の流れ。バント対策なども合わせてノックだけで約１時間もあったけど、大会を控えた時期には、ノックの本数よりこういった実戦練習の方が効果があるんでしょう。外野手の足の運びには無駄がない。普通なら２、３ステップするものだよね」

　比嘉「フリー（打撃）はやらなくてもシート（ノック）をやらない日はないんです」

　－走者は下級生？

　比嘉「下級生も３年生もいます。どこかで全員参加型の練習を入れようと思っています。効率的には悪いけど、試合前のチームの士気が上がるので」

　山下「若い監督さんは、打撃練習優先のことが多いけどこういう練習は大学、社会人になってきっと伸びるだろうね」

　比嘉「ノックでしか（選手と）会話できないんです。よくノックができなくなったら指導者をやめるという話を聞くけど、確かにそうだと最近は思います」

　山下「ノックを見て感動しました。ノックは誰でも打てるけど、コミュニケーションをとれる監督は少ないね。教え方がねちっこい。雪国っぽいねちっこさに思える」

　比嘉「県内のえりすぐりの選手と言われるけど、そうではないんです。いい選手でも練習しないといい選手じゃない。ただ、燃え尽きる子が出ないようにしないととは考えます」

　山下「僕ね、前に沖縄尚学に来た時にびっくりしたの。学校の方へ行ったらすごい狭いグラウンドだった。なぜあそこで練習して甲子園で優勝できるの？」

　比嘉「あの時は右翼４０メートル、左翼８０メートルくらいの長方形で、バスの通るアスファルトがあったので実際はもっと狭いんです。ここ（現在の専用グラウンド）は２００８年（センバツ）優勝の次の秋からで（優勝した）東浜（現ソフトバンク）たちはまだ学校のグラウンドでやっていました。ただ、狭くて練習がこれしかできないとなると、器用貧乏にならず、あれもこれもにならない部分もありました」

　山下「環境に言い訳しないで、甲子園で優勝を２回もするんだから。僕が行った時は、校庭でやっているようだった。ほんとにここで日本一になったのかと」

　比嘉「集会があれば駐車場になりますし、朝夕は送迎バスが駐車します。打撃練習中にバスが入ってくるとストップ。そういう環境でした。週１回はどこかのグラウンドへ連携確認などのためには行っていましたが」

　－今のグラウンドは。

　比嘉「右翼９０メートル、左翼８３メートル、中堅１０７メートル。学校と比べるといいですが、県外の方から見ると狭いと思いますね」

　山下「甲子園で優勝しているチームとしてはね」

　－比嘉監督がエースだった１９９９年春に沖縄尚学は沖縄勢初の甲子園優勝を果たした。

　比嘉「沖縄水産が２年連続準優勝した時は僕は小学３年くらいで、あと一歩をテレビ越しで見てて。僕らが高校に入ったら浦添商さんがベスト４。１つ年上に新垣渚（現ヤクルト）がいて、沖縄水産は狙えるんじゃないかって年に春夏初戦敗退。その次に僕らが出てなぜか優勝するんです」

　－理由は何か。

　比嘉「僕らの恩師はグラウンドの練習だけでは限界がある、特に沖縄に関してはルーズな部分が多いし、絶対にやるという勝負ごとに疎いということをずっと言っていた。僕らはそう言われて、生活面で時間を守るとか、そういうことで勝利に直結するのかなと疑問に思いながらやっていたのですが、気づいたら勝っていた。沖縄県に足りないのは、当たり前のことを当たり前にやるということだったのかなと。我喜屋監督（興南）もそういうことを言われていたと思います。ここでは夜型ですし、夜７時でもこの時期は照明なしでもボールが見られる。生活そのものが夜遅く、朝も起きられない。それが沖縄なので」（２に続く）