自分を殺さない生き方
【6月16日】
兵庫県出身の心理カウンセラー心屋仁之助(こころや・じんのすけ)の著書に『50歳から人生を大逆転』がある。エラそうに紹介する資格はない。大学時代の友人がLINEをくれて知ったまでだ。
「こんな本、知ってた?読んでラクになったわ」。再来年50歳になる友人が書籍の画像を貼って送ってくれた。そう言われると気になる質(タチ)で、読んでみた。
僕から見れば、この友人は成功者。上場企業で役員になり、その筋のトップランナーともいえる彼だけど、それでも50歳から人生をガラッと変えたいのか。同著書の次のくだりに共感したそうだ。
「他人の評価のためなら自分を殺すこともいとわず、自分が好かれるためなら、嫌われないためなら、どんな無理でもやり、どんな我慢でもしてきたこと。人のために、人のために、といいながら他人の顔色ばかりうかがう人生だったと気づいたのです。そこから他人の顔色ではなく、自分の気持ちを大事にする人生に変えました」-(原文まま)
自分を殺してまでは…と思って生きてきた僕にとって、20数年も〈殺してきた〉人の気持ちは分からない。でも、その友人が「ラクになった」というのであればきっと、いい本に出逢えたのだろう。
この日、東京五輪に臨む侍ジャパンの内定選手が発表され、阪神から青柳晃洋と岩崎優の2選手が選ばれた。『50歳から人生を大逆転』を読んだばかりの僕は「50番の大逆転人生」を思うのだ。
青柳は「僕は代表に入るのは初めてなんで、驚いているというのが一番」と語っていたが「青柳に関わった全ての人」が驚いていると取材の限り感じる。
前監督・金本知憲が自身の初ドラフトで5位指名した変則右腕は金本が監督でなければ阪神に入団することはなかった。それどころか、金本は「阪神から指名されてなければ、あいつはプロ野球選手になってなかったんじゃないか」と笑う。指名の経緯は以前触れたので省かせてもらうが、それほど「無名」だった青柳がなぜ日本を代表する投手に成長できたのか。
金本から聞いた事実をもとに、その要因を独断で書けば、それは青柳が「自分を殺さずに」野球人生を歩んできたから…。
高校生だって大学生だってそうだけど、プロだって指導者の「顔色をうかがい」野球をすることはある。青柳も時にそんなことがあったかもしれない。が、彼はそのために自分を殺し続けることをせず、自分の色にこだわり続けたから成長できたのだと思う。
青柳のルーキーイヤーに金本が僕に語っていた。「コントロールは全然良くないわな。でも、あの投げ方でとにかく強いボールを投げられる。そんな素材の投手はなかなかおらん。あいつはあのままでええ。化けたら儲けもの」
自分を殺さずに済んだ環境で青柳は進化を遂げた。そして、化けた。僕はそう思う。金本そして矢野燿大の下ではぐくまれた才能が世界から注目を浴びる。こんなに嬉しいことはない。=敬称略=