札幌といえば糸井嘉男

 【6月8日】

 そうか。ピンチバンターか。同点の九回無死二塁。1点を取りにいく最善策だからしょうがない。でも、オッサン記者は見たかった…。糸井嘉男の4打席目を。

 ロッテに負け越し、西武に勝ち越し、オリックスに負け越し、ソフトバンクに負け越して札幌へやってきた。当然、3カード連続の負け越しは避けたい。そこでスタメンを見て「おっ」と思った。

 佐藤輝明「初の5番」もそうだけど、糸井がかつての庭、札幌ドームでスタメンに名を連ねているではないか。しかもポジションは08年以来、13年ぶりとなるレフトで…。

 テルと糸井、猛虎の近大コンビに注目したこの夜だけど、札幌で思い出すのは、糸井が語ったもう1人の近大OBである。

 日本ハム時代の糸井を僕が初めて取材したのは、それこそ08年のこと。札幌で糸井に名刺を渡し、話し掛けてみた。

 はじめまして。いきなり申し訳ないのですが、近大時代の林威助選手のことを…

 「あ、いいですよ」

 糸井はとても丁寧に、林先輩の話を聞かせてくれた。

 「いやぁ、林さん、飛距離がエグかったですよ」

 この年、岡田阪神は開幕から絶好調でぶっ飛ばし、交流戦でも貯金を積み重ねていった。この年の林は手術明けで初出場は5月末。札幌へ来る直前のロッテ戦でようやく1軍の舞台へ帰ってきた。

 あかん、優勝してまう…

 復帰した林がバンバン活躍してもネタに困らないように…

 そんな思いで同門の後輩にアタックしたわけだ。

 糸井は06年に正式に投手から外野手へ転向し、その年が3シーズン目。翌年から飛躍を遂げる…そんなタイミングだった。

 糸井と阪神で再会できるとは当時は思いもしなかった。札幌で交流戦を見る度、糸井との初対面を思い出す。今年40歳を迎える彼は21年シーズンを大きな決意をもって過ごしている。

 今年ダメなら…。

 そんな覚悟を想像して試合を見てきたけれど、今季はスタメン3試合ですべて本塁打。つまり糸井がスタメンで本塁打を打つ確率は「10割」だった。だから、この夜も「神話」に期待したのだ。

 近大の後輩、テルはプロ初の4三振。けっこうじゃないか。今季初打点となる原口文仁の決勝打にはしびれた。4時間を超えるロングゲームになったけれど、いいものを見させてもらった。

 先日、スタメンで本塁打をかっ飛ばした夜、糸井と一番近しい関係者に連絡してみた。

 まだまだ元気やん?

 そんな話を振ると、その彼は言った。「体は若返ってますよ。足の状態もいいでですし…」

 飛距離のエグい糸井が帰ってきた21年だ。林先輩の弾道を見て成長した超人は今、後輩テルの弾道を見ながら、まだ成長しそう。

 交流戦で出場機会は増える。這い上がった札幌でアーチを架ける糸井を見みたい。=敬称略=

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