【野球】野村克也氏“ぼやき”の真相は…「決して悪いことじゃない」

 今から振り返ると、最後の大勢の中での取材だった。2月11日。元南海、ヤクルト、阪神、楽天で監督を務めた野村克也氏が死去したため都内の野村邸へ行った。公道まであふれかえる報道陣の中で長男・克則氏の話に耳を傾けた。

 野村監督が楽天監督就任1年目の2006年、07年と楽天担当を務めた。自身の取材方法や振るまいにも、野村監督流に言えば、ぼやかれたこともあったが、今の制限生活を思いながら、なに不自由なく取材ができた当時のありがたさが、身に染みる。

 担当時代の06年は最下位だった。球団創設、間もないだけに、仕方がないだろうと思いながらも敗戦後の取材が脳裏に焼き付いている。連敗続きで重苦しい雰囲気。報道室に入るなり「どうせ、あしたの新聞に『ぼやいた』って書くんだろう」。翌日の紙面の内容を突っ込まれることもしばしばあった。これまでのプロ野球記者歴の中で多くの監督と接してきたが、試合後の記事のコメントの締めで『と、ぼやいた』と書いたのは野村監督時代だけだ。

 『ぼやいた』とよく書いてきた記者は、書かれた時の思いは不快に思っているだろうと思いながらも、野村監督に聞いたことがある。すると「ぼやくってことは決して悪いことじゃないんだぞ。ぼやくってことは理想があるからぼやいているんだからなあ」と笑いながら話してくれたことも思い出される。

 当時から、野村監督はささいなことでも選手、球団がよくなるようにと、ぼやきという言葉で忠言してきた。“ぼやき”は選手の行動やコーチ陣の振るまいまで多義にわたっていたが、理想のチーム作りへ、ぼやいた結果が、その後の日本一への礎を築いたのだ。決して愚痴でない、野球経験と人生経験がぎっしり詰まった名言でもあり、建設的な言葉だった。(デイリースポーツ・水足丈夫)

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