【スポーツ】何もかもが異様すぎた“相撲の聖地” トランプ大統領大相撲観戦

 大相撲夏場所(26日千秋楽、両国国技館)は終わって見れば、トランプ米大統領が根こそぎ話題をさらっていった。わずか50分の滞在で“相撲の聖地”両国国技館をまさにジャック。強烈なインパクトを残し、嵐のように去った。

 朝から何もかもが異様すぎた。ペットボトルの持ち込みがまず厳禁。紙パックの飲料はOKと聞かされていたが記者は会場入りの際、警備担当者にパックを開けて一口飲むよう指示され“毒味”した。他の記者は複数の紙パックをすべて開けて一口ずつ飲んでいた。

 館内に入ればSS(シークレットサービス)と思われるスーツ姿の屈強な外国人が至る所を巡回。「力士より警察の方が多い」と関係者は苦笑いしていた。会場扉の前には制服姿の警視庁警察官が2人も立って目を光らせていた。

 トランプ大統領が入場する赤じゅうたんの花道にはSSや警察官でビッシリ。まだ午前中なのに近づくこともできない。そんな中、幕下以下の力士が千秋楽の相撲を取っているのは不思議な光景だった。

 お客さんももちろん、金属探知機に荷物チェック。ペットボトル、瓶ビールと次々に没収されていた。極めつけは、入場者全員に配布された以下の書面。

 「場内で座布団等の物を投げるなどの行為を行った場合は退場の上、処罰されることがありますので、絶対にしないでください。《刑法第208条暴行罪》二年以下の懲役もしくは三十万円以下の罰金または拘留もしくは科料」。

 座布団を投げた者は逮捕される可能性があることが記された。確かに厳密に言えば、座布団投げは暴行罪にあたるのかもしれないが、大相撲の歴史で1度も処罰などされたことはない。とにかく、トランプ大統領への過剰とも言える“防衛”だった。

 売店ではドリンクはすべて紙コップに移し替えされて販売。瓶入りのみそ、ちゃんこスープ、秘伝のたれなど液体のお土産は販売中止となった。また、自販機も使用禁止で「休場」の紙が貼られた。こういう“遊び心”は笑えた。そして、店頭からは人気メニューのゆで卵が消えていた。卵など投げつける人はいないだろうに…。

 液体に関しては特にピリピリしていた。「お茶1滴でも大統領にかかったらすぐに連れて帰る」と、協会には通達されていた。

 あおりを食ったのが力士たちだ。取組出番前の花道は水もお茶も禁止。うがいもできず、口はカピカピに乾いた。多くの力士はマウスピースを使用するため花道で水を口にし、フィットさせる。そのルーティンが狂えば、相撲にも影響する。「こっちは真剣勝負でやっているのに。パフォーマンスで来るのはどうなのかな」と、古参力士は立腹した。

 最も乱されたのは優勝した朝乃山だろう。千秋楽、幕内土俵入りの前に突然、自身の取組からトランプ大統領が登場し、観戦することを告げられた。

 トランプ大統領の入り待ちのため、土俵下で5分も棒立ち。会場内に入るや観客は総立ちになり一斉に携帯カメラで撮影。天覧相撲でもありえない光景だった。

 騒然とする中、取組は御嶽海(出羽海)に一方的に寄り切られた。次代のスター候補同士による屈指の好カードを楽しみにしたファンもいただろうが消化不良に終わった。

 朝乃山は「(集中力持続が)難しかった」とポツリ。御嶽海は「トランプ大統領を見に来たのか、優勝した朝乃山を見に来たのかわからない」と嘆いた。

 トランプ大統領は正面枡(ます)席の最前列を改造して設置された特製ソファの上で手もたたかず、ニコリともせず観戦した。朝乃山には片手で表彰状を渡す場面もあった。尊大さはイメージ通りだった。これぞ、“世界の最高権力者”の姿を存分に見せてもらった。

 厳重チェックのため、JR両国駅まで入場者が長蛇の列を作った。入場に1時間も待ち幕内取組に間に合わない人もいた。緊急事態を警備の親方衆が総出で対応し続けた。

 オープンカーで優勝パレードの前に朝乃山は役員室に呼ばれると、協会幹部がズラリとそろっていたという。令和初の国賓を無事に帰すという最大の任務を果たした相撲協会は安どしかないであろう。

 千秋楽まで優勝を持ち越し、仮に優勝決定戦になれば、トランプ大統領のスケジュールにも影響する。警備上を考えれば結果的に14日目に優勝を決めた25歳若武者の頑張りは大きかった。八角理事長(元横綱北勝海)から「ぐいっといけ」と差し出された、ねぎらいの冷えたビールを朝乃山は一気に飲み干した。(デイリースポーツ・荒木 司)

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