魅了した五輪の主役たち 羽生ら大活躍の日本勢

 スピードスケート・女子500メートルで金メダルを獲得し、日の丸を掲げる小平奈緒=18日、江陵(共同)
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 大いに盛り上がった平昌冬季五輪も閉幕へ。1998年長野大会の10個を上回る史上最多のメダルを獲得した日本選手も多くのドラマを演じた。各競技のメダリストらが「魅了した光景」を振り返ってみよう。

 ▽五輪の主役 羽生結弦

 フィギュアスケート男子で66年ぶりの五輪連覇を果たした羽生は、外国勢も含めた平昌大会全体の主役の一人だ。

 フリーの後半に、ジャンプの着氷でバランスを崩しながらも、鬼気迫る表情でぐっと耐えた。右足首の故障を乗り越えた技術力と精神力のすさまじさが、見る者の胸を打った。羽生の回復具合は、大げさに言えば国民的関心事だった。ジャンプから降りるたびに、ファンは安堵(あんど)した。

 五輪で勝つことの難しさ、しかも4年を経て再び金メダルを手にすることがいかに大変か。涙ながらに口にした「右足に感謝」の言葉はまさに“金言”だった。

 ▽優しき女王 小平奈緒

 スピードスケート女子500メートルで金メダルの小平は、強さとともに、その優しさで多くの共感を呼んだ。

 小平が五輪新でトップに立った直後だった。次の組で、最大のライバル李相花(韓国)がスタートを迎えようとしていた。小平の快走で沸き上がる日本の応援席に向かい、小平は人さし指を口に当てて「静かに」のポーズ。李のスタートを邪魔しない配慮だった。

 レース後は、五輪3連覇を逸して泣き崩れる李を抱きかかえて健闘をねぎらった。小平のスポーツマンシップは、韓国のメディアからも高く評価された。

 ▽チームワーク スピード女子団体追い抜き

 個の力では劣っても、チームという組織でまとまることができればどんな相手にも勝てる。スピードスケート女子団体追い抜きの日本は、練り上げたチーム戦略で強豪オランダを下して「金」。

 空気抵抗を最小限に抑えて体力の消耗を避ける見事な隊列。スピードを落とさない先頭交代の工夫。エース高木美帆の走力を最大限に生かす戦術。すべてがかみ合っての栄冠だった。

 長期合宿を指導し、戦略を授けたのがオランダ人のヨハン・デビット・コーチ。胸には達成感とともに、母国を破った複雑な気持ちもあるだろう。レース後メディアにあまり登場しなかった謙虚さには好感が持てたが、心の内をもっと聞きたかった。

 ▽超「新人類」 宇野昌磨

 フィギュアスケート男子で羽生に次いで2位の宇野は、20歳で五輪初出場。重圧はなかったのだろうか。

 フリーでのメダル争いは最終滑走者。自分が何点とれば1位になれるかを計算していたという。最初のジャンプで失敗して金はないと思うと、「笑えてきた」と言い放った。

 その後、難しいジャンプを次々と決めて銀メダル。それでも淡々とした様子は変わらず「メダリストになっても何か変わるとは思わない」「五輪も一つの試合だと思っていた」。

 嫌みのない天然の味だ。かつて、大人には理解しがたい若い世代を「新人類」と呼んだ時代があった。宇野は、いい意味での「超新人類」と言ったところか。

 ▽孤軍奮闘 渡部暁斗

 ノルディックスキー男子は、伝統のジャンプ陣が不振。複合の渡部がノーマルヒルで2大会連続の銀メダルを獲得し「エースの責任」を果たした。

 孤軍奮闘だった。ノーマルヒルは後半の距離で欧州の強豪に1人で立ち向かったが、最後の急坂で力尽きて目前の金を逃した。

 ラージヒルは前半飛躍で首位に立ち、先頭で距離をスタート。だが後続のドイツ勢3人のチーム戦略にかわされ、またも同じ急坂で後れをとった。孤高のレース。日本の「キング・オブ・スキー」の頑張りをたたえたい。

 ▽少年がクールな青年に 平野歩夢

 スノーボード男子ハーフパイプの平野も、2大会連続の銀メダル。王者ショーン・ホワイト(米国)とのハイレベルの接戦で涙をのんだ。

 ソチ五輪ではまだ15歳だった。あどけない少年が好青年に成長していた。世界最高レベルの難しい技に果敢に挑む勇敢さ。惜敗にも、感情を押し殺して「負けたと思った」と冷静に振り返る潔さが印象的だった。

 軟派風のイメージもあった競技を、厳しいスポーツだと認識させた功績も。鼻筋が通ったクールな表情と同様に、骨のある立派なアスリートになっていた。

 ▽メダルの重み 高梨沙羅

 スキージャンプ女子の高梨は、メダルをいたわるように抱いていた

 ソチ五輪は絶対の金メダル候補だった。初めての五輪の緊張感に負けたのか、気まぐれな風が災いしたのか。結果は表彰台にも届かない4位。当時は本人も周囲も「金」以外は眼中になかった。予想外の結果に衝撃だけが残った。

 昔から五輪では「金と銀は大違い」「銀と銅はどちらも貴重」「銅と4位は、天地の開き」と言われてきた。

 高梨が涙でつかんだ「銅」には、4年前の喪失感を埋める重みがあった。

 ▽メダルに届かずとも 宮原知子

 メダルが脚光を浴びるのは五輪の常だが、入賞者にもメダルに負けない健闘が目立った。フィギュア女子4位の宮原が代表格だ。

 股関節などの故障からいったんは諦めかけた五輪代表の座を勝ち取り、直前までジャンプの回転不足に苦しんだ。困難をすべて克服して、小柄な体で懸命な演技。自己最高得点をマークした。「銅メダルに届くかも」と多くの人が思った。

 思うように伸びない採点に不満のそぶりも見せずに「4年後に戻ってきて今度こそメダルを取りたい」。真摯(しんし)に競技と向き合う姿勢が、とてもすてきだった。

 ▽テレビの主役

 カーリングは試合時間が2時間以上。短時間の勝負が多い冬季競技では珍しい長時間競技だ。日本女子は3位決定戦まで含め計11試合。20数時間も日本のテレビに映り続けたことになる。

 氷上を滑るストーンを思い通りに運ぶ技術、スイープする力に、先を読む戦略性が絡む。極めて難しいスポーツだが、一見すると素人でも参加できそうな気安さもある。

 五輪期間中にルールを理解した人も多いだろう。選手と一緒に次の手を考える「参加型のテレビ観戦」が可能だった。気軽にプレーできるカーリング施設が、増えるかもしれない。

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 冬季五輪は、五輪憲章で定められている通り「雪上競技」と「氷上競技」のみで競う。文字通り「雪と氷」の祭典だ。よく滑るコースやリンクでスピードと技術を争う競技は、転倒や接触などのリスクと隣り合わせ。運、不運が勝負を分けることもある。スリリングだから、迫力もある。

 選手たちはそうした特性を理解した上で挑み、結果もすべてのみ込む。スポーツの魅力が、そこに詰まっている。だから、五輪はおもしろい。(共同通信=荻田則夫)

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