名物D語るオールナイトニッポン50年(2)ユーミンとも本音「緊張関係」が生命線

 10月2日に深夜ラジオ番組「オールナイトニッポン(以下、ANN)」が放送開始50周年を迎えた。最初期の音楽とトークを交互に繰り返すスタイルから、タレントの起用、ラジオ発のスターの誕生と、時代に応じて変化していったが、根底には軸となる哲学があった。1989年に入社し、ANNの名物ディレクターとして活躍した節丸雅矛編成部長(以下、敬称略)に、知る限りの番組の変遷と、自身が入社した時の雰囲気を振り返ってもらった。

 デーモン小暮(現・デーモン閣下)、とんねるず、藤井郁弥(現・藤井フミヤ)、ウッチャンナンチャン、松任谷由実、そしてビートたけし。節丸が入社した年のANN1部のラインナップは「怖かったです」と振り返るほどの雰囲気があったという。

 例えば、80年代のANNをけん引したビートたけしの場合。無数のたけし軍団がスタジオどころか、フロアの階段まで詰めかけていた。「階段まで人があふれていて。10時、11時ぐらいからそういう感じになって。たけしさんの目に一目でもとまろうという感じだったと思います」。大学を出たての青年には“怖い”光景だった。

 最初にADとして配属されたのは「とんねるずのANN」だった。まだ20代のとんねるず。放送もその破天荒ぶりが伝わる内容だったが、制作チームでもそれは同じ。“怖さ”という面では、一つのチームであるはずのスタッフの中に、入れてもらえないディレクターもいたと節丸は話す。「新しいディレクターを信用していないから、なかなかはがき選びに入れてもらえなかった。生やさしくない」。番組を担当したら、「番組の最終責任はディレクターが負うというディレクター至上主義」を掲げていたとしても、うまくやっていた前任者の後は、超えるべきハードルは高い。「どのディレクターも前任者の陰をうっとうしくおもいながらも乗り越えていくというところがあります。ディレクターとパーソナリティにも緊張関係があって」。新入社員・節丸にとって「怖さ」の正体は、この緊張感だった。

 当時社員だった寺内たけしや、大槻ケンヂのANNを担当した後、昼の番組「いまに哲夫の歌謡パレードニッポン」へ移った。ここで一緒に仕事をしたのが初代ANNパーソナリティの一人、今仁哲夫だった。「昼の番組で当時、すごく怖くて。(当時のニッポン放送は)怖い人ばっかりだったんです(笑)」。そこで昼に移って気付かされたのは、「今仁さんは昼でオールナイトニッポンをやってるんだ」ということだった。

 今仁には方程式があった。「フリートークを2分から3分のユニットで組み上げるんです。3分しゃべって曲、3分しゃべって曲を繰り返すんです」。トーク、曲、CM。1セット約10分のユニットを積み重ねていく。これが節丸の番組作りの血肉になっていった。「人間の注意力って3分以上もたないんですよ。手を指に当てていると3分たったら触っている感覚がなくなる」。とんねるずは数十分フリートークを続けてリスナーを引き込んでいたが、これも節丸に言わせれば、3分ごとにトークを区切るスキルがあるから輝く“反則”なのだという。「そうするとタモリさんとかさんまさんがすごいというのが分かってくる。同じことをダラダラしゃべるのは絶対にだめ。とんねるずもそういうの(3分でまとめるトーク)がすごくうまかった。あれ、天才の技なんです」。もちろんタモリもさんまもANNの経験者である。

 若手時代に忘れられないパーソナリティがもう一人。土曜1部の松任谷由実だ。ここでの緊張関係は本番前に繰り広げられた。「ユーミンさんがうけるだろう話を考えて、面白いと思うツボを探すんです」。彼女は彼女でトークをして節丸のリアクションを探る。本番前に1度、トークでバトルをしているようなものだ。

 今となっては笑い話だが、あのユーミンを節丸は落ち込ませたことがあるという。ある楽曲の感想を求められた時に「若い子への感じじゃないですね」とあけすけに言い放ってしまった。自身が音楽をやっていたとはいえ、大物ミュージシャンに対して“暴言”にも聞こえかねない。ユーミンが「そういうけど、若い子に評判いいんだよ!」と反論してきて、初めて大口をたたいてしまったと気づいたが、本音をぶつけ合ってきたからこそできるやり取りだった。

 ニッポン放送全体にある哲学として、「あの人大物だから言うことを聞かない、という言い訳が一番嫌いです」と節丸は語る。「ちゃんと同じ目線で話せたら、きちんと相手は反応して変わっていくんですよ」。翻って今の番組を見ると、心配に思うこともあるという。「おっさんの戯れ言になるから…」と苦笑いをしながら、今の作り手たちに願うのは「もっと狂ってくれ」だった。(全3回、次回は10月16日に配信予定)

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