「メモする」だけで治った逆流性食道炎

 「町医者の独り言・第1回」

 暖かい日が増えてきました。患者さんの服装も日に日に軽くなってきています。春を感じます。私は、谷光利昭という町医者です。このコラムを通じて、医療にかかわるさまざまなことを紹介していきたいと思っています。

 兵庫県伊丹市で開業してから、今年の7月7日の七夕でちょうど10年となります。ほんまに早いもんです。大学を卒業してからは関東を中心にいろんな病院で研修しました。外科医だったんです。土日もなく手術、雑用に追われる日が続いていました。10年前、兵庫県内の総合病院で外科部長をしていたとき、ある縁から開業の話が来ました。当時まだ37歳…だいぶ迷いましたが、独立することを決めました。

 最大の決め手は、自分の診察室で思い通りの医療をしてみたかったから。ほんまです。患者さん一人一人とじっくり向き合って、適切な処置をしていく。もちろん責任は大きくなりますが、その分やり甲斐もあります。より診察の領域を広げるため、開業では「内科」の看板を掲げました。常に心掛けているのは「診る・聞く・触れる」-。医療において、すべての基本となる言葉です。

 ちょっと「ええかっこし過ぎ」と思いますか?けれど、私の知る限りほとんどの医者はそう思っています。患者さんは大学出たてのルーキー医師でも、高名なベテラン医師でも、すがる思いで身体を、そして命を預けてくれるのです。こちらもそれなりの覚悟をするのは当たり前です。病気には絶対負けない!という強い執着心。そんな思いをもたなければ、この仕事に就く意味があるでしょうか。それを考えると、今の医師の研修制度は…あっ、この話題に入ると長くなりますので、また別の機会にお付き合いください。

 こんな話があります。以前、70代の女性が逆流性食道炎を患っていました。まず食事面をチェックしたのですが、患者さんに食べたものを聞いていると、こちらの言うことは守っている。それなのに一向に改善しない。おかしいなぁ…、そこで私はある提案をしてみました。

 「食事を摂ったら何を食べたか必ずメモしてね」

 患者さんはややいぶかしげでしたが、その後、パン一切れ、チョコ一かけらまで詳細にメモをつけてくれました。すると、ほぼそれだけで、悩まれていた逆流性食道炎が治ったのです。実は“女性のはじらい”が原因でした。あれも食べた、これも食べたなんて、やはり男性に面と向かって言いにくいのです。つまり、ごまかしていた。不思議なことに、メモをするという行為に転じると、なかなか「ウソ」は書けないものです。それは日々の節制にもつながり、その人の持っている治癒能力を引き出すことができたというわけです。

 難病の大きな手術などに比べたら“小さい話”かもしれません。しかし、ただメモを取るだけでその患者さんは外科的治療もせず、さらにきつい薬も飲まずに済んだわけですから、治療としては大成功です。

 病院に来られる人の症状や状況は千差万別です。患者さんが病室に入ってきたときから目をそらさず、しっかり耳を使って、患部を触診する。医者である限り、このローテーションを極めていきたいと、私は思っています。

 ◆筆者プロフィール

谷光利昭(たにみつ・としあき)たにみつ内科院長。1969年、大阪府生まれ。93年大阪医科大卒、外科医として三井記念病院、栃木県立がんセンターなどで勤務。06年に兵庫県伊丹市で「たにみつ内科」を開院。地域のホームドクターとして奮闘中。

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