新横綱鶴竜 相撲人気の回復に貢献か?
大相撲に新横綱鶴竜(28)=井筒部屋=が誕生し、夏場所(5月11日初日、両国国技館)は白鵬、日馬富士と史上初のモンゴル人3横綱が土俵に上がる。となれば、大いに話題になってもいいのだが、もうひとつ盛り上がりに欠ける感は否めない。
理由は鶴竜の存在感の希薄さだろう。相撲道をまい進する白鵬、連敗、けがなど何かと話題の豊富な日馬富士と比べると、地味なイメージはぬぐえない。かつての暴れん坊横綱朝青龍とは対極に位置する。春場所番付発表では綱取りがかかった大関だというのに、報道陣が数えるほどしかいなかったという“逆エピソード”もある。
だが、見方を変えればこれほど魅力的な横綱もいない。もともと大学教授の家庭に育ったエリートで(本人は否定するが)礼儀正しく、性格は極めて温厚。地味とか目立たないという雰囲気は、自分の立ち位置をしっかり把握しているからこその控えめさともいえる。
では、鶴竜の穏やかで優しい人柄を表す報道陣とのやりとりをいくつか紹介しよう。綱取りが佳境にさしかかった春場所の終盤戦、大阪市内の井筒部屋で朝稽古が終わった後だった。いつものように一人で門の外に出てきた鶴竜は、顔なじみの相撲担当記者とちょっとくだけた立ち話をしてくれた。
‐突然ですが、最近、怒ったことあります?
「えっ、あれっ、いつ怒ったっけな…。ちょっと忘れました」
‐イライラしたりもしないんですか?
「うーん、そうですね、しませんね。イライラしてもしょうがないじゃないですか」
‐最近、大きな買い物しましたか?
「えっ、うーん、買ってないですね」
‐大画面テレビとか買ってないんですか?
「いや、テレビはこんなくらいです(と両手で四角を作る)。小さいですよ。これで十分ですよ」
‐じゃあ、何にお金使っているんですか?
「うーん、特にね。あまり使わないですね」
‐部屋で使う自転車とかは?
「自転車!?自転車はそりゃ高いものもあるけど、そんなにはしないでしょ」
‐相撲に負けた時も怒ったり、イライラしたりしないんですか?
「(かすかに語気を強めて)いや、それはしますよ。それがなかったらダメでしょ。自分だって負けたときはイライラしますよ」
‐本当ですか?
「本当ですよ」
‐日本語は何で覚えたんですか?
「来日したころはバラエティー番組を見て、字幕で覚えました」
‐バラエティー好きなんですか?
「好きですよ」
‐どんな番組ですか?
「とんねるずの食わず嫌いとか…」
そうこうするうちに今にも泣き出しそうだった空から雨が。と、その瞬間、鶴竜は「こちらへどうぞ」と屋根のあるところへ招き入れてくれた。担当記者とのやりとりは部屋の前での立ち話だったので、配慮してくれたわけだが、なかなかできることではない。
新横綱として迎える夏場所まであと1カ月足らず。24日には番付発表がある。鶴竜が土俵上でどんなパフォーマンスを見せてくれるか、今から楽しみだが、ここまで書いてきたほんのりとした人柄を踏まえてテレビ観戦すると、また妙味が増すのではないか。穏やかで礼儀正しい横綱が土俵上では真剣勝負を披露する。以前にも書いたが、気は優しくて力持ち。その昔、モテる男は皆そうだった。鶴竜の魅力は奥が深いと思うのだが、いかが‐。
(デイリースポーツ・松本一之)