のぞむところですよ!

 【8月30日】

 サードB・ダルベックのミスに助けられたゲーム。僕はそんな見方をした。三回無死一、二塁。才木浩人のバントが三塁前へ転がると、小笠原慎之介がマウンドを駆け降りた。

 そしてこの打球をお手玉して、巨人からすれば3失点に繋がった。こういう戦況はサード封殺を狙うので三塁手はベースにつく。セオリーだが、しかし、絶対ではない。才木のバントが絶妙で、記者席から見る限りは三塁手が「任せろ!」と叫ぶ打球に見えた。しかし、試合後の小笠原はG番からこのプレーを聞かれると、「僕以外に誰が捕りにいくんですか」と語り、他責にしなかったそうだ。当然か…。

 ダルベックの一塁でのスタメンは74試合。三塁は39試合目。チーム事情とはいえ、一塁、三塁の掛け持ちは簡単ではない。概して左腕が三塁線のバントをさばくのは難易度が高い。投内連携に長ける攻いサードなら…

 阪神のホットコーナーには不動の主軸がいる。こんなに有りがたいことはないとつくづく思う。この日は前夜の死球の影響で森下翔太が先発を外れたために3番サード…佐藤輝明である。

 Gを3タテした瞬間、輝はサードからマウンドに駆け寄りながら、パン、パン、パン、パン、パン…5度、グラブをたたき、歓喜をあらわしていた。

この夜は無安打。それでも、この喜び様…つまり、この人がいかにチームの勝利を重んじているかが分かる。

 藤川阪神のマジックは「21」に減った。優勝の行方とともにそろそろ気になるのは、栄えある第一回の「長嶋茂雄賞」受賞者である。

 最右翼はもちろん…

 このゲームで一番のボルテージは得点以上に、このシーン。三回のチャンスで輝が小笠原から死球をくらった。きのうのきょうだけにファンも反射的に熱くなる。幸い大事に至らなかったようだが、痛みをこらえて一塁へ歩く背番号8の様がもう、スターなのだ。

 新設された同賞の選考基準を聞けば数字的な基準は設けないという。走攻守で高いレベルにあり、かつ、ファンを魅了する選手。成績のみならず「ミスター」のように華やかでファンを熱狂させるスターを称えることが目的。

僕が一票を持っていれば、輝一択だ。

 そういえば、長嶋監督時代の巨人を担当した先輩とコーヒーを飲みながら面白いエピソードを聞いた。その記者、当時の所属は東スポ。初見でミスターに名刺を切ったときの逸話があるという。「記事でご迷惑をお掛けすることもあると思いますが…」。夕刊紙ならではのファーストコンタクトだが、そんな挨拶をされれば、大概の選手は「お手柔らかに…」と苦笑して腰を引くところ、ミスターは違ったそうだ。

 「のぞむところですよ!」

 ゲームを振り返れば、もし、巨人軍のサードが長嶋だったら…阪神は先制できていなかったかも。投手を制し、素手で捕って転倒しながら一塁へ…そんな絵が浮かぶ。輝ならどうか。

 死球はもう「のぞむところ」ではないが、華やかに、ファンを魅了するカウントダウンを見たい。=敬称略=

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