一番にレギュラーを獲る

 【6月16日】

 前監督の金本知憲が阪神を去り際に残したコメントを覚えている読者は多いと思う。

 「だいぶ育成も終わったので、そろそろ補強で勝たれたほうがよろしいかと思います」

 あれは18年の秋。就任3年間のラストゲームをナゴヤドームで終えた直後の会見だった。その2日前に辞任(事実上の解任)を発表していた前監督は、大勢の報道陣を前に、穏やかな笑みを浮かべながら確かにそう語った。

 発言の捉え方はファンも様々だったと思う。果たしてあれを金本のホンネだと感じた方はどれくらいいらっしゃるだろうか。

 きのうの続きを書きたい。

 おととい、阪急阪神ホールディングス副社長(阪神電鉄社長)の秦雅夫(しん・まさお)は、株主総会の質疑応答で「10年ほど前から取り組んできたスカウティングやコーチングの改革が実を結んできております」と語った。

 スカウティングの「改革」に本気で取り組んだ功労者を念頭に、秦はそう語ったのだ。

 きのう当欄で金本が素材重視のドラフトを敢行した話を書いた。その一人が、今やセ・リーグNo.1の成績をあげるクオータースローであることは、ご存じの通り。

 「おもしろい選手を獲る」

 金本のそんな号令を懐かしめば青柳晃洋のほかに、僕の印象に深く刻まれる「おもしろい選手」がいる。

 島田海吏である。

 彼は17年ドラフトの4巡目だけど、同年のドラフトといえば、清宮幸太郎一色だった。なんせ彼は7球団競合のスターであり、阪神も1位=清宮で臨んだわけだけどそんな折、金本は独り言のように周囲にこう漏らしていた。

 「今年はとにかく足の速い選手を獲りたいんよ。中途半端ではなく、とびっきり速い選手がいい」

 打力は二の次。アマ球界一の快足を欲していたところ、それに見合う外野手が上武大にいるという情報をドラフト前に聞きつけ、自らゴーサイン。それが…

 「島田はもともと足で取った選手だったけど、最初あいつのバッティングを見たときに、スイングが良くてびっくりしたんよ」

 金本は僕にそう語っていた。

 素材ドラフトがもたらした「産物」がどんどん実を結べば、「改革」への評価はさらに高まる。

 いつだったか、そんな「金本の慧眼」を証言したのが、前球団副社長の谷本修だった。

 「高山俊選手が新人王(16年)を獲った後のことでしたが、金本さんは『若手では島田選手が一番にレギュラーを獲るんじゃないですか』と仰っていました」

 あのころ、本気で「改革」を試みた金本はいま何を思うのか。

 「昨年くらいから体つきも変わってきた印象があるよ」

 1番に定着しつつある島田の成長を前監督はしっかり見ている。

 「補強で勝たれたほうが…」

 あの発言の真意はどこに?

 その「裏返し」が叶わなければ改革の時計の針は容赦なく戻る-僕はそう読み取る。=敬称略=

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