遊撃手戦国時代

 【5月19日】

 僕が創志学園の関係者なら「え~」と言ったかもしれない。五回の攻撃で西純矢に代打が告げられた場面だ。プロ初先発で無安打投球。もう少し見たい…そんな気持ちになったって不思議じゃない。

 5イニングで87球。4四球。この結果を見れば、被安打0でもこの回まで…。西純矢のこれから、そして何よりも勝つ為に、ベンチの判断は賢明だったと思う。

 この夜の西に限らず、見る者によって気持ちは各人各様である。

 ドラフト同期、同じタイミングで出場選手登録された及川雅貴は西の好投、そして、均衡を破った近本光司の本塁打をどんな心持ちで見ただろう。「よっしゃ!」と拳をにぎったか、それとも、ライバルとしては複雑だったか。

 僕なら、ベンチでほくそ笑む。いや、西と及川の話じゃない。

 ヤクルト四回の守りである。

 メル・ロハスJr.の遊ゴロを元山飛優がエラーした場面だ。ルーキーにレギュラーを奪われる形で控えに回る西浦直亨はどんな思いでその拙守を見ただろう。また、このエラーで巡った一、二塁で、梅野隆太郎、山本泰寛が凡退した場面を、僕が西浦なら「打てよ」と思ったかも。もっといえば、山本の見逃し三振は、僕がベンチの小幡竜平ならほくそ笑む…いや、そこまで書くと性格悪いやつか…。

 でも、この世界で仕事を始めた頃、当時のベテラン選手から何度も聞かされた。「プロってそんなもんや」。自分の職場が脅かされるのだから、ライバルの成功を喜べるはずがないのだ、と。

 ありがとうございます。僕が西なら、沢山の感謝を山本泰寛に告げる。よく守ってくれました、そして、よく打ってくれました。

 七回先頭の山本である。彼の一打が、貴重な追加点の口火になり西のプロ初勝利を引き寄せた。

 あの回は、代打・小幡が犠打失敗し、1点を取ってなおチャンスの場面で中野は三振…。それも明日への糧、若い力も必死である。

 代打・西浦が八回「継投ノーヒットノーラン」を崩した場面は、さすがに元山も心から拍手しただろうか。それにしても混沌と…。

 各球団の「遊撃戦争」である。この夜、阪神の遊撃スタメンは、山本だった。今季、阪神の遊撃スタメン回数は、次の通り。1中野(23試合)2木浪(11試合)3山本(7試合)4小幡(1試合)。一方のヤクルトは西浦(28試合)と元山(12試合)が争う。ちなみに他球団のそれを記せば…

 広島は1田中広(23試合)2小園(17試合)3三好(1試合)

 DeNAは1大和(19試合)2柴田(12試合)3倉本(9試合)

4牧(2試合)5知野(2試合)

 巨人は坂本勇人の離脱で併用を余儀なくされ、中日はほぼ京田陽太で固定されるが、パ・リーグで全試合スタメンは西武の源田壮亮のみ。他は複数が遊撃につく。

 のちに今季を振り返ったとき、21年の阪神遊撃手で色濃く記憶が残るのは誰か。前回優勝の05年は鳥谷敬が全試合フル出場したけれど、今シーズン戦国時代を勝ち抜く遊撃手は誰か。=敬称略=

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