忘れることのない試合

 【4月23日】

 毎日放送のラジオを聴きながらDeNA戦を見た。「MBSベースボールパーク」の解説はデイリースポーツ評論家の西山秀二。聞き慣れた名調子だから、ゲームセットまでイヤホンを外さなかった。

 藤浪晋太郎について西山目線でどう語るのか。楽しみにしていたけれど、ゲームは序盤に壊れてしまった。「四球は投手のエラーです」。晋太郎は常々そう語っているので、本人は責任を背負いこんでいるに違いない…寝つきの悪い夜になったかもしれない。

 「すべて経験ですから」

 西山がそう語ったのは、早々とベンチへ下がった藤浪へのエールではない。ルーキー佐藤輝明へのメッセージである。

 藤浪、馬場皐輔が招いた五回1死満塁のピンチで神里和毅の放った右前打を佐藤輝が後逸した。グラブの下をするりと抜けて打球は右翼フェンスまで転々。打者走者の生還まで許してしまった。

 この失策で1-7。

 「これからの野球人生で彼は忘れることはないと思いますよ」

 西山はそうも語っていた。

 なんでやろ…。

 失策の原因ではない。MBSがラジオ中継する阪神対DeNA戦が、なぜか「CBCドラゴンズナイター」つまり、東海地区でも放送されていた。この夜、中日は神宮でヤクルト戦。なぜ「ドラゴンズナイター」が阪神戦を??

 「あぁ、それは、風は分からないよね。実は、放送権の関係でCBCはヤクルト主催試合を中継できないので、今夜はMBSの中継をネット受けしているんだよ」

 MBSアナウンスセンター長の馬野雅行が教えてくれた。

 へぇ…長年この世界で仕事をしながら、知らなかった。

 ならば、甲子園のゲームを聴いていた名古屋のリスナーは何を思ったか。阪神怪物ルーキーの失策をどう聴いたのだろうか。

 ここからは僕の想像だけど、福留孝介のルーキー時代を思い出した竜党もいたのでは…。

 あれは、星野竜が優勝した99年シーズン。マジックを減らす秋のVロード広島戦で黄金ルーキーが信じ難い失策を犯してしまう。

 0-0の九回2死一、二塁で、レフトへの飛球を福留がまさかの落球…このサヨナラ失策に、ルーキーは「とにかく申し訳ないです…」と言ったきり言葉を失った。

 この試合を取材していた僕はよく覚えている。当時の紙面を検索してみると、試合後、記者の質問に「まるで消化試合や」と打線をやり玉にあげた星野はしかし、新人の失策には一切触れなかった。

 実は、このとき福留が捕れなかった飛球をレフトへ打ち上げたのが当時カープの西山秀二だった。

 西山は甲子園の放送席で佐藤輝の後逸を眺めながら、福留の落球を思い出しただろうか。結局あの99年シーズン、優勝した星野竜は5位のカープに負け越した。

 最下位DeNAに取りこぼした夜。佐藤輝は一流の階段を上るために痛みを伴うかけがえのない経験をした。22年前の福留がそうであったように。=敬称略=

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