メジャー三冠王の価値
【4月13日】
日本選手のマスターズ優勝をプロ野球で例えると何だろう。記者仲間でそんな話になったけれど、長い日本ゴルフ史で前人未到。アジア選手初となると…その偉業はどんなものにも例えがたい。
「三冠王…とかじゃないか?」
松山英樹の東北福祉大の先輩・金本知憲と話せば、そう語った。
メジャーリーグで三冠王…。
確かに、アジア人で誰も到達したことのない…というか、想像もつかない高みである。松山の快挙はそれほど価値の高いものだと金本は称賛するのだ。
きのう当欄で東北福祉大ゴルフ部監督・阿部靖彦と仙台で会った話を書いた。たまたま金本知憲と阿部のランチに同席させてもらったわけだけど、野球畑からゴルフ界の名将になった阿部が嬉しそうに教え子の大学時代を振り返っていたのがとても印象的だった。
13日のデイリースポーツに阿部がかつて松山のマスターズ制覇を予言していた「1人語り」を掲載したわけだけど、阿部が「18歳の松山」に語りかけた回想でこんなくだりがあった。
「大学に入ってきた時から『やることはいっぱいあるぞ。人の2倍、3倍なんてもんじゃないぞ。5倍、10倍と努力しないといけないぞ』と。細かったからね、高校の時は。体つきは、大学1年、2年、3年、4年、プロに入ってから、そして今、と全部違う」
ゴルフ界に疎い僕は、阿部の言葉から松山の努力を想像するしかないわけだけど、松山は阿部の指南通り「人の10倍」練習に励んだのだと思う、間違いなく。
「松山が大学生の時に今の姿を想像する人は誰もいなかったでしょう。そこは本人の意識と努力のたまもの。誰もが松山になれるかと言ったら誰もなれないと思う」
阿部はそう言い切るのだ。
誰もなれない…。
この言葉は、尊い。
血の滲む階段の壮絶さを知る恩師だからこそ、松山は歓喜のオーガスタで真っ先に阿部の顔を思い浮かべ、会見に臨む前に涙声で阿部に電話を入れたのだ。
「メジャーでどれが一番かといったら、やっぱりマスターズ」
阿部はそうも語っていた。
阿部と親交があり、かつて阿部を通じて松山と対談した金本が、「野球ならメジャーで三冠王」を獲るくらいの価値だと称えるのも何だか分かる気がする。
さて、そんな金本が松山の快挙を報じた同じデイリーの紙面で、佐藤輝明について評論していた。
「三振が増えていることも気にしなくていい。三振であろうが内野ゴロであろうが同じアウト」
今のままでいい。阪神主砲の系譜…佐藤の先輩はそう言いたい。
佐藤が大学の時に今の姿を想像する人は誰もいなかったでしょう
-。何年か後、もしかしたら、そんな話を聞ける日がくるかもしれない。僕の取材の限り、佐藤という男は「人の10倍」努力する才能を持ち合わせているという。誰も佐藤になれない…そういわれるくらいの選手になってほしいと、金本も期待する。=敬称略=