実況で一度だけ叫んだ選手

 【4月9日】

 いったぁ~!ライトへ~!

 佐藤輝明の場外弾を木内ならそんなふうに絶叫して伝えただろうか。いや、違うな。こちらの興奮をよそに、落ち着いたトーンで驚弾を実況したような気がする。

 おととい私事で当欄を休載したため、その寂しさを筆にのせることができなかった。

 サンテレビアナウンサー木内亮が8日の巨人戦で野球実況のマイクを置いた。テレビの前で彼のラストアナウンスを噛みしめ、最後はジーンときてしまった。

 どこの企業でもあるように、彼は異動でアナウンス部を離れることになった。深くツッコんでいないので事情は知らないけれど、今後は同局の社会情報部でキャスターを担いながら夕方の番組制作に携わるという。

 木内とはウマが合った。取材現場でも、プライベートでもよく絡ませてもらった。ともにお酒を飲んだ夜も、二度や三度じゃない。僕より少し歳下だけど、実直、誠実なその人柄、仕事への探究心にはいつも頭が下がる思いだった。

 「今ですか?サンテレビで野球中継を見てますよ。佐藤選手のホームランくらいから…」

 「サンテレビボックス席」を前夜卒業したばかり…それでも、タイガースファンは生涯「続投」。当稿を書きながら連絡してみると木内は横浜へ思いを馳せていた。

 「横浜での思い出?それはやっぱり、金本さんの2000本安打を実況したことです。金本さんはあと1本から達成まで5試合くらいかかったと思いますが、まさか自分の順番まで回ってくるとは思わなくて…。僕はまだ実況3年目で、すごく緊張していて、ドキドキしながら実況していました」

 「木内実況」のファンは僕の周りに沢山いた。なぜファンかといえば、ほぼ同じ理由である。

 「絶叫しない実況」だから…。

 木内にそのあたりの思いを聞いたことがある。

 「僕には爆発的な声量がないので…。落ち着いた、どんな時も叫ばない実況を心がけています。あと…僕にとってのアナウンサーとは、黒子でありメッセンジャーです。決して自分が前に出ることなく、横にいる解説者やゲストの言葉を最大限引き出せるか…。それを視聴者の方にわかりやすく伝えられるかということを、一番大切にしてきました」

 そんな木内が17年間の実況で一度だけ叫んだことがあった。

 「一昨年の夏、大山が京セラで逆転サヨナラ3ラン打った試合。4番を外れたすぐあとで、解説の岡田彰布さんにも『大山の心中やいかに』とクローズアップしてもらっただけに…僕の実況してきた中で一番叫んだ中継でした」

 大山悠輔が3本かっ飛ばした横浜の夜、木内は苦笑いしながら、それでも大山にエールを送るように、嬉しげにつぶやくのだ。

 「きのう見たかった…」

 前夜は4番が音無しで、巨人に完封負け。願わくば、この日がラスト登板なら…いや、それも木内らしい最後で良かったと思う。=敬称略=

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