スーツを20着も…

 【12月13日】

 福留孝介の中日ドラゴンズ復帰が決まった。阪神から構想外を告げられて1カ月半。待望の朗報が届いたわけだけど、あらためて日米2000安打のレジェンドが猛虎に遺した財産を考えてみた。

 「タイガース福留」の8年間、その全てをこの小さな欄に収められるはずもない。何を書こうか思案したうえで、あえて最も記憶に新しいシーンをつまんでみる。

 今秋、10月終わりのことだ。ファーム調整を続けていた43歳が若虎に助言する姿が各紙で取りあげられた。指南のターゲットは来季2年目を迎える遠藤成である。

 「初めて見たとき、こいつはモノになると思ったんですよ」

 かねて福留はそう語っていた。思い入れが強かった。だから歯がゆさがあったのだろう。親子ほど歳の離れた後輩へ、厳しいゲキが口をついて出た。

 「お前、何を休んでんねん。休むヒマなんかないやろ」

 藤谷洸介と2人で打撃練習していた遠藤が交代でケージを出たとき、福留がハッパをかけた。片方が打って片方が休む。そんなローテーションのバッティング回りだったが、〈ケージを出てもバットを振っておけ!〉である。

 福留「野球をやりたいのか。トレーニングをやりたいのか?どっちや?」

 遠藤「野球をやりたいです」

 福留「じゃあ、バットを振れ」

 そんなやりとりだった。

 筆者は福留をPL学園時代から知る。日本生命からドラフト1位で中日へ、スター街道を歩んできた彼だけど、その才能は全て一流の「練習」に裏付けされたもの。プロの門をたたき、中日で鍛錬に励んだ20代。春はキャンプ地の沖縄北谷で一カ月間、当たり前のようにやり続けたことがあった。

 全体メニュー終了後、室内練習場で毎日2時間、決まって直球とカーブのマシンを相手に打ち込んだ。来る日も来る日も、ケージから一度も出ずに、だ。

 中日監督、落合博満はそんな福留の練習姿をよくのぞきに来た。

 「きょうはオッケー」

 「きょうはダメだ」

 何がオッケーか、何がダメなのか、言わない。だから、それを考える。きのうと何が違うのか。何が良かったのか。何が悪かったのか。自分を見つめる時間、イコール、居残り時間になった。

 そして、走って、走って、走りまくった当時、練習の虫で下半身が大きくなり、オフにスーツを20着以上無駄にもした。

 「(スーツのズボンが)まったく入らなくなった」

 今の時代、そんな仰天の「成功談」をなかなか聞かなくなった。

 誰だって、ラクしてうまくなるなら、それが一番いい。でも、そんな成功例はない。無類のポテンシャルを感じてもそれだけで消えていった選手を何人も見てきた。遠藤にはそうなってほしくない。だからこそ福留は伝え、遺した。

 「あいつ、入ってきたときが一番良かったんじゃないかな」

 愛情の詰まった福留孝介のメッセージである。=敬称略=

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