愛犬たちの散歩に楽しそうについてきた「見知らぬ黒い犬」…1年がかりで保護して、3頭目の愛犬に

 愛犬の散歩に見知らぬ犬がついてきた--微笑ましいような、ちょっと怖いような。岡山市に住む森山由紀さん(仮名)宅には元野犬で保健所から引き取ったくろちゃんと、捨て犬のミルクボランティアが縁で迎えたアカちゃんがいました。毎日、朝晩1時間程度の散歩がご主人の日課だったのですが、3年前のちょうど今頃、1頭の黒い犬がついてくるようになりました。

「数週間前から近くで見かけてはいたんです。呼ぶと近づいてきたので飼われていたんじゃないかなと。外飼いの犬がいる家に遊びに行って、ごはんももらっていると聞いていました。最初はくろと仲良くなって、くろに会いたくて来ていたと思うんです。それが、うちに来れば一緒に散歩に行けると分かったのか、時間になると庭に姿を見せるようになりました。主人がドアを開けると尻尾を振って大喜びするし、夜は主人の帰りを待つようになりましたね」(森山さん)

 当時の様子を撮影した動画を見せてもらうと、その黒い犬が散歩を心待ちにしていたのがよく分かります。

 あまりに毎日通ってくるので、賛否あるのは承知の上で、森山さんは庭でごはんをあげるようになりました。名前は近所の子供たちが呼んでいた「くうちゃん」。個人ボランティアで保護活動をしている知人に相談すると、「捕まえられるなら保護してあげて」と言われましたが、それはなかなか難しく…。

 ただ、毎日のように顔を合わせていれば、情が沸くのは必然。数日姿を見ないと「事故に遭ったんじゃないか」と心配になるし、台風が近づいていると聞けば「今はどこにいるんだろう」と気になりました。2018年夏には岡山、広島、愛媛などを襲った西日本豪雨も。

「うちの家は少しだけ高くなっているので浸水などはありませんでしたが、庭にはとても出られない状態でした。2階の窓から見ると、くうちゃんが少し離れた場所に立ってこちらを見ていたんです。『うちに来たいんだな』と思うと切なかったですね」(森山さん)

 実は、それ以前から本格的に保護を考えるようになっていました。散歩の途中でご主人が、ノーリードの犬がいることを責められたと言うのです。愛犬2頭にはちゃんとリードを着けていました。もう1頭は迷い犬。でも、パッと見ただけではその事情が分かりません。それほど3頭仲良く散歩しているように見えたのでしょう。実際、18年の春頃には玄関先でもごはんを食べられるようになり、ウッドデッキに置いた犬用ベッドで休むようにもなっていました。それでも…。

「毎日のように散歩していた主人は、捕まえるのは不可能だと思っていたようです。そばにいるとき体に触れただけで奇声を発して離れたそうですし、朝晩楽しそうに散歩についてくる姿や、それが終わると外飼いワンちゃんの家にいそいそと会いに行く様子を見て、外での自由な暮らしを奪うのはかわいそうなんじゃないか、とも考えたみたいです。なぜ自分だけが地域に暮らすこの犬のことで悩んでいるのか。ほとんどの人は微笑ましく見ているだけなのに。でももし交通事故に遭ってしまったら…そんなジレンマも抱えていたようですね」(森山さん)

 犬が好きで、犬のことを真剣に考えているからこその迷いでしょう。保護したほうがいいのは分かっていても、どうすることもできないまま時間だけが過ぎていきました。

“その時”は突然、やって来ました。18年10月7日。くうちゃんがウッドデッキの下に入ったとき、その場所に閉じ込めることができたのです。家族以外に“援軍”も来てくれ、捕獲器に入れることに成功!お散歩合流から1年近くたっていました。

 直後は慣れないリードに戸惑い、あれほど大好きだった散歩にも行けなくなったくうちゃんですが、元気を取り戻して外に出るようになると、いろいろな人に声を掛けられたと言います。「捕まえられたんですね」「心配していました」「よかった」「ありがとう」--放浪生活の間、くうちゃんはたくさんの人に見守られていたのです。

「車を停めて声を掛けてくださり、涙ぐむ方までいました。どこで生まれて誰に飼われていたのか…何も分かりませんが、きっとひとりぼっちで寂しくて、助けてほしくてうちに来たんだと思います。わが家の保護犬3頭は元野犬、捨て子、迷子と複雑な経歴を持った子ばかりですが、うちに来てよかったと思ってもらえるよう、飼い主として頑張っていきたいと思います」(森山さん)

 くうちゃんは森山家を選んで、「この家の子になろう!」と思ってやって来たに違いありません。

(まいどなニュース特約・岡部 充代)

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