日本人との絆…コロナ禍にトルコ料理店オーナシェフが抱いた想いとは

新型コロナウイルスの流行によって経済的に厳しい状況にある神戸・三宮。

そんな三宮の中でも特に甚大な影響をうけている歓楽街・東門街の入口にトルコ料理店「MURAT(ムラート)」はある。「MURAT」はトルコ人オーナーシェフのムラート・サルサカロールさんが経営する老舗トルコレストラン。羊肉やトマト、ナスなどの野菜、乳製品やオリーブオイルをふんだんに使ったソースを中心に組み立てられたトルコ料理は上品かつ豊かな味わいで、高品質のトルコ産ワインも多く揃っていることから、多くのファンに愛されている。

しかしご多分に漏れずこの「MURAT」にとってもコロナの影響は大きく、一時は閉店も考えるような状況に追い込まれていたらしい。コロナ禍にあって、はるか遠い異国からやってきて飲食店を営むムラートさんはいったい何を感じていたのだろうか。お話をうかがってみた。

中将タカノリ(以下「中将」):ムラートさんが料理人の道に進んだきっかけをお聞かせください。

ムラート:家計を助けるため、小学校の頃から近所の飲食店でアルバイトをしていました。初めは掃除とか洗い物だけだったのが、何年か通ううちに玉ねぎやジャガイモの皮をむいたり、お米を洗ったり…。料理が身近な環境で育ったので、12歳で小学校を卒業すると本格的に料理人の道に進みました。

中将:日本では料理人の世界は厳しいと言いますが、トルコではいかがだったでしょうか?

ムラート:トルコでも同じでしたね。何か間違ったらお鍋やフライパンで頭をゴツンとやられたり(笑)。

でもそんな厳しい環境の中でいろんなことを学んでいきました。レストランが私にとっての学校のようなものだったと思います。そして17歳で生まれ育った小さな町から少し大きな街に出て、兵役を経て最終的にイスタンブール(トルコ最大の都市)で「カールトン」、「スガール」などのホテルレストランで働くようになりました。

中将:料理人として順調に階段を上っていたムラートさんが心機一転、日本に来ようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?

ムラート:初めはホテルで知り合ったフランス人シェフの誘いで、漠然とフランスに行こうと思っていました。それでお給料の2ヶ月分のお金をはたいてパスポートを取って準備をしていたんですが、そんな中、大阪にあったトルコレストランに来ないかという具体的な誘いがあったんです。

中将:フランスから日本になっちゃったんですね。

ムラート:フランスも日本も遠くて行くのにお金がかかることに変わりはありませんでしたから。それまでのわずかな貯金はパスポート代で無くなってしまったので、お金を借りて日本に来ました。2001年、26歳の時です。

中将:日本での生活はいかがでしたか?

ムラート:平和で住みやすい国だなとは思いましたが、当時は朝から晩まで働きづくめでしたね。そうやって少しずつお金をためて2005年3月5日に神戸・三宮で小さなお店を開きました。初めは不安もありましたが、思いのほか繁盛していつも満員。お客さんを断ってばかりでした。それで2008年に今の場所に移ってきたんです。

不動産屋さんは「こんなビルの上階であまり日本人になじみのないトルコ料理を出しても…」と心配したようですが、私には元々のお客さんが絶対について来てくれるという自信がありました。

中将:「MURAT」は料理だけでなくムラートさんの人柄も魅力ですよね。僕にとってもついつい顔を出したくなる空間です。

ですが、そんな「MURAT」も今年に入ってからの新型コロナ流行では大変な影響を受けたと思います。どんな状況だったでしょうか?

ムラート:本当にダメでしたね…。三宮の飲食店はどこも厳しかったと思いますが、特にこの東門街周辺は歓楽街なので、緊急事態宣言の前後はまったく人通りがありませんでした。仕込みをしてもお客さんがこないのでどんどん廃棄になってしまいました。お店に誰も来ない日が続くとどんどん心細くなってくるし「もうここまでかな…」と思うこともありました。

中将:ムラートさんは外国人なので、身近に頼れる家族や身内がいません。想像しかできませんが、普通の日本人よりもはるかに大きな不安があったんじゃないかと心配していました。

ムラート:ありがとうございます。たしかに自分一人で抱えてしまった時期はありました。でもコロナが少し落ち着くと、支えようとしてくれる常連さんや友達たちがテイクアウトで料理を買いに来てくれるようになりました。もう何年も来てなかった人たちも心配して来てくれるんですよ。私はトルコからやってきた外国人ですが、この「MURAT」というお店を通して日本の人たちとの間に絆が生まれていたのだと気付きました。私がやってきたことに意味があったのだとわかったことは何よりの収穫でした。

まだまだコロナの影響は残っていますが、少しでも元に戻せるよう、日本のみなさんにおいしいトルコ料理を味わっていただけるよう頑張っていきたいと思います。

   ◇   ◇

▽「MURAT(ムラート)」店舗情報

【所在地】神戸市中央区中山手通1-4-5 サブウェイサイドビル8F

【営業時間】ディナー17時~22時30分(L.O 21時30分)、ランチ11時30分~14時30分(L.O. 14時 ※土・日・祝のみ営業) 

【定休日】月曜日(不定休)

   ◇   ◇

ムラートさんのように飲食業にたずさわる外国人の方は数多い。また外国料理店は地域にとって欠かせない異文化交流の拠点でもある。まだまだすぐにというわけにはいかないだろうが、彼らが日本での安定した生活を取り戻し、元のようにその意義あるお仕事をまっとうできる日が来ることを願いたい。

(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)

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