広島・川辺駿「見返したい」将来性が成功の確信に変わった瞬間

 「三日会わざれば刮目して見よ」という言葉があるが、この古い言い伝えを実感できたその瞬間ほど、嬉しいことはない。サンフレッチェ広島が目指す「育成型」の醍醐味だ。

 MF川辺駿は2013年、17歳の時からトップチームの公式戦に出場している。Jリーグの先発経験も、得点に絡んだこともある。才能は疑いない。パスも上手いし、スピードも、知性もある。しかし、それだけであれば、プロに入ってくる若者すべてが持っている「将来性」に過ぎない。

 だがある瞬間、その将来性が成功の確信に変わった時がある。たしか、2014年9月10日、天皇杯の対G大阪戦後だったと思う。

 試合後、彼の目は真っ赤だった。先発したものの何もできないままに途中交代。戦っていない、走れてもいない。低評価に唇をかみしめ、自然と涙があふれ出た。「見返したい」。精一杯の言葉だった。

 ただ、悔しさに涙するだけであれば、そこからの成長は望めない。愚痴に走り、言い訳に終始するだけになりがちだ。川辺はどうだったか。屈辱の翌日、彼はリカバリートレーニングの後も1人、ピッチに残り、ひたすらにボールを蹴り続けた。蹴ってはボールを拾い、そしてまた蹴る。それだけが「見返す」ことにつながる1本の道だと信じるかのように。

 5年後、川辺は堂々たる主役として、紫の戦士たちをけん引する。球際での戦いは迫力に満ち、ピンチとなれば最後尾まで戻って守備を助ける。第7節の対神戸戦では今季のJ1で11人しかいない「1試合13キロ走破」を成し遂げ、「走れない」という評価は完全に過去のものとなった。今季の広島において全試合先発は川辺と柏好文だけ。繊細な技術に力強さが加わった若者の振る舞いを見ながら、選手たちはプレーする。彼が背負う40番は、チームの羅針盤となった。

 「残り3試合、ACL出場の可能性をかけた大切な試合だし、何よりも来季向けて重要な試合になる」

 選手会長・川辺駿。堂々たるリーダーだ。(紫熊倶楽部・中野和也)

 ◆川辺駿(かわべ・はやお)1995年9月8日生まれ。広島市出身。MF。背番号40。並木学院高卒。08年にサンフレジュニアユースに入団し、11年に同ユースに昇格。13年にプロ契約を結び、Jデビューを果たす。15年に期限付き移籍した磐田でも3季にわたってレギュラーで活躍し、18年に広島に復帰。178センチ、70キロ。

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