【野球】阪神・坂本が悔いた山川へのストレート四球 正捕手語録で振り返る苦闘の日本シリーズ
2025年の日本シリーズはソフトバンクの4勝1敗で、阪神は日本一を逃した。多くのナインが「力の差」を感じたと証言。その中でも坂本誠志郎捕手(32)は全5試合でマスクをかぶり、打者の対応力の高さを目の当たりにした。シーズンオフにも「その差」を赤裸々に明かしていたが、試合直後や試合翌日にはどう感じ、どう抑えようとしていたのか。期間中の言葉を振り返る。
【第1戦】
初回の先発村上は明らかに本調子ではなかった。自慢の制球力が影を潜め、立ち上がりから失点を許す。緊張なのか、マウンドへの対応なのか。坂本は「真っすぐを下向きにしたくて」と修正のために、二回はカーブを投げさせた。
先頭の野村と続く海野には2球目でカーブ。牧原大には初球に59キロの超スローカーブを選択。「いろんなものの調子を戻してくるというか、いろんなことをできたというのが、1つのキーポイントだったかな」。いつもの直球を引き出すためのカーブが、復調のきっかけになった。
その中で感じたのはホークス打線の強さ。「思うようなアウトになってくれない。うわっ、これがソフトバンク」と苦しさを感じたという。それでも、芽生えたのはプラスの感情。「それをどうするかというのは楽しいし、そこにすごい面白みがある」。キラキラと目を輝かせていた。
開口一番で「まじ楽しかった」と言いながら、冷静な組み立てができることに驚かされる。7回1失点と立て直した村上と、坂本の技術が詰まった1戦目だった。
【第2戦】
二回までで9失点という結果は受け止めなければいけない。坂本は女房役として「大量失点になって申し訳ない」と反省した。でも、ただ負けたわけではない。課題も収穫も手にした一戦になった。三回以降はシリーズ初出場の中継ぎ陣で1失点。これには価値があったという。
第1戦。経験豊富な村上でさえ、投球が上ずった。「変化球が浮きやすい、高めにいきやすい」と分析する。「中継ぎの投手にもペイペイ(ドーム)のマウンドの感触をつかんでほしいという思いは強かった」。第6戦以降、福岡に戻った場合の不安は取り除かれた。
打たれたことも悲観するだけではいけない。もちろん、全試合で抑えた方がいいことは前提として「打たれた、抑えた、どっちも経験したことで見えるものもある。どっちも材料があるのはプラスに捉えていいこと」。1つのプレーが流れを変える短期決戦において、マイナス思考は捨てなければいけない。
そして、この2戦で注意したのは4番・近藤の前後を打つ2人。「(3番の)柳町くんにはカンカン打たせたくない」と2試合合計で4四球は想定内だった。「(5番の)栗原も気持ち良く振らせたくない」と警戒。柳田や周東ら好調と思える選手が多い中で、3、5番を徹底マークしていた。
【第3戦】
山川の同点弾が間違いなく流れを変えた。1点リードの四回1死で才木の甘くなったスライダーを捉えられ、2試合連続被弾。坂本はキーポイントを「山川さんのホームラン」と挙げた。ただ、単純に打たれた場面ではない。反省するのはもっと前にあった。
初回に1点を先制した直後の二回。先頭が山川だった。才木は制球が定まらず、明らかなボール球の連続でストレートの四球。ここが2打席目の本塁打につながってしまったという。「反応がもうちょっと見える、分かりやすいような形でいけてたら」。とはいえ、才木が制球を乱したのにも理由がある。
「大事にいこうとしすぎました」
後に、こう言われたという。味方が先制し、さらに流れを呼び込みたい場面。「逆に才木がそこまで考えないといけないって思うぐらい、山川さんという存在が大きくなってる」。六回の柳町の勝ち越し適時三塁打も、次打者に山川がいることで勝負せざるを得なかった。投げた球は悪くはなく、「あれを打てる技術と対応力はさすが」と褒めた。第3戦以降のキーマンは間違いなく山川だった。
【第4戦】
負ければ崖っぷちとなる一戦も山川のバットに試合を動かされた。二回無死、しつこく内角を攻めながら最後は甘くなった外の直球をバックスクリーンへ運ばれる。悔しい1球にはなったが、ベンチではすぐに高橋へ声をかけた。「今のホームランは忘れてくれ」。失投かもしれないが、引きずってはほしくない。
実際に2打席目以降も内角への厳しい攻めは変えなかった。すると、その後は2三振1四球。「もっと早い打席、早いシリーズの展開の中で、この打席を作れていたら、もっと気づくこともあったかもしれない」。素直に遅かったことを認めたが、5戦目以降につながる材料を確保した。
坂本は本塁打を打たれることが全て悪だとは考えていない。当然、打たれないに越したことはないが、内角を攻める以上はリスクも伴う。その一方で「早い段階で出されて、そのまま尾を引いているというのがある」。5戦目は山川を単打1本に抑えた。だからこそ、もっと早く崩したかった。
そして、結果的に響いたのが六回の3点目。2死二塁で代打・近藤を迎えた場面だった。次打者は柳田。「敬遠」という選択肢もあったが、チームとして勝負を選んだ。「打った球も厳しいボールだった」と最善の策は打っていたが、打球は右前に達する適時打となった。
【第5戦を含む総評】
坂本は契約更改交渉の場でソフトバンクとの差について、球団と話し合ったことを明かした。「技術的な部分もフィジカル的にも足りていない」と言及。「その差がないと思っている選手は今後、成長していかないと思います」と厳しい言葉でチームを鼓舞した。
日本シリーズ期間中、毎日のようにゲームのポイントを聞かせてもらった。1戦目の勝利の後に「楽しかった」と笑っていたのが、最後の笑顔だった。2戦目以降は悩んで、もがく表情に見えた気がする。お世辞ではなく『強い』と感じたのだろう。
だからこそ、来季のリベンジを楽しみにしている。相手がソフトバンクであるとは限らないが、日本一を決める戦いは一筋縄ではいかない。坂本から聞いていたポイントを頭に入れながら、野球を見ると面白みが増していた。マスク越しに感じた「差」を埋め、来年の日本一の瞬間に、坂本が笑っている姿を見たい。(デイリースポーツ阪神担当・今西大翔)





