江夏、落合、原…大物たちと巡り合った元日本ハム右腕、いまは女子野球の監督 部員は聖火ランナーの警備も 

 日本ハムで最優秀防御率に輝き、巨人では打撃投手を務めた岡部憲章さん(63)は2019年から女子硬式野球の「ZENKO BEAMS」の監督を務めている。東海大相模では巨人・原辰徳監督と同期。その後は江夏豊、落合博満といった大物と巡り合い、野球の極意を学んだ。その経験が指導のベースになっているのは言うまでもない。

 2006年に退団後は東京都中野区で「You’s・cafebar」を営むかたわらクラブチーム「浦和ディアーズ」を指導。15年からは日本ウェルネススポーツ大学のコーチを務めた。

 女子硬式野球に携わるきっかけは警備会社「ZENKO」(さいたま市)の海野弘幸社長との出会い。「人間も一流、野球も一流」をモットーに女子硬式野球「ZENKO BEAMS」を立ち上げた際に指導を依頼され、19年から監督となった。

 「この年齢になっても野球に情熱的な女性たちと出会えたことに生きがいを感じます。女性は野球に対して純粋。教えてもらことに飢えていたのか、教えたことを反復練習して、手を抜かないんです。大切なことと思えば、泣きながらでも必死にする。指導のしがいがありすね。私が思っていた以上にレベルは高かったです」

 現在、女子硬式野球部は全国で40チーム(高校、大学、社会人含む)あり、女子野球人口も増えてはいる。今夏は高校女子硬式野球の決勝戦が甲子園球場で行われる予定で注目度も高まりつつある。

 ただ「ZENKO」のスタンスはあくまで人間形成の一環。その発展型として女子力を生かしたビジネスモデルの確立を目指す。

 「警備会社ですから人の信用が大事です。まずは人間形成。野球を強くするための補強はしません。あくまで社員が野球で体と精神を鍛えます。私と社長との考え方が一致していたのでやりやすかった。今でも2人で老体にムチを打って頑張っています」と岡部さん。

 「今年は社員である部員が、東京五輪聖火ランナーの警備をしました。また、AKBらの人気者のサイン会や握手会の荷物検査をしています。女性の持ち物は女性がしないと男性では嫌がるので。選手たちは仕事面でも、野球で鍛えた体力をいかして活躍、社会人としても成長する姿が嬉しいです」

 東海大相模では巨人・原辰徳監督と同期だった。甲子園のスターに対し、こちらは控え投手だったが、日本ハム入団5年目の81年には13勝2敗、防御率2.70で最優秀防御率を獲得。その年の日本シリーズでは大卒ルーキー原と対戦し、抑え込んだ。

 実は、最優秀防御率の陰にはピッチングの極意を教えてくれた江夏豊の存在があった。規定投球回に1イングだけ足りない状況での最終登板。マウンドに向かう岡部さんに希代のサウスポーが言った。

 「おい、岡部。消化ゲームだから相手はどんどん打ってくる。だからストライクは投げんでいい。ボールだけを投げるつもりで行け!」

 その指摘はズバリと当たる。打ち気にはやる近鉄打線を3人で料理。晴れてタイトルを取った。

 「江夏さんは意識して平気でボールを投げていました。日ごろからよく”ここはボールでいいと意識付けをして、投げろ!”とアドバイスもしてくれました。あの指摘がなかったら力んでストライクを取りに行って、打たれていたかも。たった1イニングですが、防御率のタイトルが取れたのは江夏さんのお陰と思います」

 その後は阪神を経て巨人の打撃投手へ。進路を案じた原からの勧めだった。時を同じく現役に未練があると察した江夏も動き、当時ヤクルトの監督だった野村克也に声を掛けていたという。

 「江夏さんに『先に声を掛けてくれた原からの誘いで巨人に行きます』と伝えたら『原の顔をつぶさなんようにな。こちらは大丈夫だから』と優しく言ってくれました」

 岡部さんの人柄がそうさせるのか。その巨人ではまた”大物”と交わる。三冠王にして、のちに中日で名将の名をほしいままにした落合博満の信頼を勝ち取り、打撃投手を務めるようになった。極秘の打撃練習にも付き合った。落合はその著書で「あれだけ実績のある男が打撃投手の任務を全うするなんて人間性がすばらしい」と絶賛しているほど。キャンプでの打ち初めでは1日500球、注文の厳しい神主打法を満足させた。

 「落合さんが要求する緩いボールはコントロールが難しいんです。だから他の打撃投手は投げ方が分からなくて、イップスになる。最後まで残ったのは私だけになりました」

 その落合からは打撃投手としての誇りと生き甲斐を感じる言葉をもらったことも忘れはしない。

「打撃投手の特権は、打者に毎日投げているのだから各打者の調子を一番知っているはずだ。それをコーチに進言することもできる、と。フォームの変化も唯一見抜けるのは打撃投手だ、と役割の幅を教えてもらった。落合さんと出会えて本当に良かった」

 一流の投手と打者に間近で接し、野球の神髄を吸収した岡部さん。きょうも、それぞれの場面を思い出し、女子野球に情熱をそそぐ。

(まいどなニュース特約・吉見 健明)

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