【野球】星稜時代は甲子園に4度出場 大フィーバー巻き起こした右腕とも対戦「糸を引くようなボールが外角の一番低いところに…」ホークスのいぶし銀、湯上谷さんが回想

 ホークス一筋に16年の現役生活を送った湯上谷竑志さん(59)は、石川・星稜高時代に春夏を通じて甲子園に4度出場した。高校卒業後はドラフト2位で指名を受けた南海(現ソフトバンク)に入団、俊足と広い守備範囲を武器に内外野を守れるユーティリティープレーヤーとして存在感を発揮し続けた。星稜の監督だった山下智茂氏(門前高野球部アドバイザー)に当時「プロに行けると思った」と言わしめた光るものとは。

 ◇       ◇

 1972年の夏の甲子園に初出場し、現在まで春夏通算38回の出場を果たしている名門・星稜。中学生だった湯上谷さんは、冷静な視点で自身の進路を見極めていた。

 「野球のレベルから言うと、失礼かもしれないですが、当時の富山はちょっと低いかなと。幼いながらも、やっぱり有名な星稜に行く方がいいかなと思うのと、あまり裕福じゃなかったので、高校を卒業して社会人という道もあるのかなと思って。そっちの方が選択の幅が広いかなというのはありましたね」

 故郷の富山を離れて甲子園常連校に進んだ理由を説明した。

 監督として数多くのプロ野球選手を輩出してきた山下氏は入学当初の湯上谷さんの印象を、退任後の2020年にデイリースポーツ紙上でこう回想している。

 「最初に走った時に、蝶のように走ったので、そこでプロに行けるなと思いました」

 山下氏から直接、「蝶のよう」と声をかけられたことはないというが、「入部した時から大勢の先輩方も合わせた中で、1番か2番ぐらいに足が速かったですから。先生は足の速い選手が大好きだったんで、そういうふうに見えたんじゃないですか。静かにスーッ、スーッと走る感じらしいんで」と話す。

 ただ、自身の動きについて間接的に褒められたことはあるという。

 高校の1学年下だった鈴木望選手(巨人、日本ハム)の父で、巨人のトレーニングコーチだった章介氏(東京五輪の十種競技代表)が学校に視察に訪れた際に「1人だけ動きが違う、センスがある子がいる」と言っていたと監督から伝えられていたのだ。

 センスあふれる新人は82年の夏の甲子園で1年生にして試合出場する。

 「元々ピッチャーをやってたし、ベンチ入りできそうな雰囲気はあるかなと思ったんですけど、足が速くていろいろできるんで、困った時にコイツは使えるなっていうのはあったのかなと。監督も使いやすかったんじゃないですか」

 出場49校で唯一対戦相手が決まっていなかった星稜は、1回戦で宇治(京都)に大勝した早実(西東京)との対戦が決定した。当時は高校野球全盛期。中でも飛び抜けた人気を誇っていたのが、大ちゃんフィーバーを巻き起こしていた早実の荒木大輔投手(ヤクルト)だった。注目の一戦に8番遊撃でスタメン出場した湯上谷さんは舞い上がってしまったという。

 「甲子園が阪神-巨人戦みたいな感じになっていて。そんな中で野球をやったことがなかったのでボーッとしました。なんとかバットには当たりましたけどね。セカンドゴロだったと思います。糸を引くようなボールが外角の一番遠い低いところにドーンときてました。高校野球の中でもレベルの高いところの投手なのかと思うと感慨深いものでしたね」

 出番は1打席で終わり、早実には1-10の大差で敗れたが、印象深い思い出となっている。

 甲子園には3年の夏まで計4度出場。ただ勝ったのは、2年時のセンバツでの熊本工戦だけだった。

 「4回出て1回しか勝ててない。もう何回か勝ちたかったなというのはあります。実力をなかなか発揮できなかったというか。それは悔しく思いますね。僕らは甲子園に行きたいっていうだけであって、甲子園で勝ちたいというレベルまでいけてなかったんじゃないかなと思うんです」

 当時の自分たちに足りなかったものを振り返った。

 甲子園ではその実力を存分にアピールすることはできなかったが、俊足で広い守備範囲を誇る内野手は、プロのスカウトが関心を寄せる存在となっていた。

(デイリースポーツ・若林みどり)

 湯上谷竑志(ゆがみだに・ひろし)1966年5月3日生まれ。富山県出身。石川・星稜高から84年のドラフト2位で南海入り。1年目から遊撃手として1軍出場を果たす。ダイエー時代の90年から二塁のレギュラーとなり3年連続全試合に出場。内外野を守れるユーティリティープレーヤーとしても活躍し2000年に引退。プロ在籍16年で通算1242試合、打率・258、141盗塁。ソフトバンクの育成、1、2軍の内野守備走塁コーチを務めた。現在はもみほぐし店「りらくる」福岡小笹店のセラピスト。

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