【野球】夏の甲子園 感動を呼んだ仙台育英エースの涙 最後を託した須江監督「誰も立ち入ることはできない」沖縄尚学と魂の激闘 称えられた敗者

 「全国高校野球選手権・3回戦、沖縄尚学5-3仙台育英」(17日、甲子園球場)

 見ている者の魂を揺さぶられるようなゲームだった。2点を追う延長十一回2死三塁、打席に入った仙台育英のエース・吉川陽大投手の目には涙がにじんでいた。カウントが進むに連れてあふれていく感情。それでも懸命にバットを振った。

 カウント1-2と追い込まれても必死にバットを出した。打球はファウルとなり、5球目は冷静に見極めた。目にいっぱいの涙をため込みながらも、戦い抜く姿勢は崩さなかった。内角の厳しい変化球も懸命にカットし、見極める。

 フルカウントからの8球目、内寄りの変化球をきれいに二遊間へ。だが相手二塁手がバックハンドで捕球し一塁へスロー。吉川はベースの手前で足がもつれて倒れ込み、その場に突っ伏した。チームメートや一塁塁審に体を起こされると、大粒の涙を流していた。

 「まだまだ仲間と野球がしたかった」と試合後も涙が止まらなかった吉川。そして「打力に自信の無い自分を立たせてくれて、須江先生への感謝と仲間の顔が浮かんできて…」と打席で涙を浮かべた理由を明かした。

 吉川はすでに151球を投じていた。2点を追う状況であれば代打の可能性も十分に考えられた。だが須江監督はそのままエースを打席へ送り込んだ。その理由をこう明かした。

 「吉川君と末吉くんの空間になっていたので。誰もそこに立ち入ることができないと思いました」

 さらに「見てたお客さんと記者の方も同じ感覚があったと思います」と須江監督。試合中には「継投も考えてたんですけども、天気で例える話があったと思うんですけど、全く曇り空にはならなかった」とエースを土俵から降ろす考えを消した。

 その上で「もし勝ったら次戦は吉川を考えていなかった」と、勝ち進んだ場合は151球を投じていたエースを登板させず、他の投手でしのぐ覚悟を決めていた。

 ゲームセットの瞬間、スタンドからは今大会で最も大きい拍手が両チームに降り注いだ。吉川はアルプスへの整列を終えると、泣き崩れた。ベンチ前に整列する段階でも涙が止まらず、その姿を隣で見ていた須江監督は優しい表情で語りかけ、肩をポンポンとたたいていた。

 指導者と選手の信頼関係がにじんだ瞬間-。監督は誰よりも信じ抜いて吉川にゲームを託した。そしてエースもその思いに応えようと懸命に腕を振り、延長十回、ラストシーンの“全力を出し切った”姿へとつながった。

 スポーツには必ず勝敗がつきまとう。だがもはや勝敗を超越した何かを感じさせるゲームだったように思う。仲間のために最後の最後まであきらめない姿、目の前の1球に全力を注ぐ姿。選手を信じて思いを託す監督、その気持ちに応えようとする選手。試合後、仙台育英の言葉をひもといていくと単に「勝ちたい」だけでなく、思いやりなど人間としての感情があふれてくる。

 それが須江監督が目指す人間教育なのだろう。そして沖縄尚学が先に引き揚げていく中、指揮官は涙を流す選手たちに声をかけ、勝者の列を見送るよう指示。そして指導者自ら沖縄尚学の比嘉監督に握手を求め、「頑張れ!」「優勝だよ!」と声をかけた。それにならうように選手たちもエールを送っていた。

 激闘の沖縄尚学戦を「点数では形容できないです。負け方としては最高でした」と言い切った須江監督。最後の最後まで貫いたグッドルーザーの姿勢。引き揚げる際、甲子園のスタンドから大きな拍手で送り出されたシーンがそれを証明していた。(デイリースポーツ・重松健三)

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