【野球】岡田前監督をうならせた阪神・中野拓夢の神ジャッジ 勝利を手繰り寄せたプロの走塁
「阪神2-0中日」(10日、甲子園球場)
プロの神髄を見た。初回、阪神・中野拓夢内野手が2度にわたって見せた神ジャッジ。トップレベルの走塁技術が先制点となり、先発の村上をアシストした。
初回1死。中日・高橋宏の152キロ直球を捉えた白球が左中間で弾んだ。決して深くはない打球。中堅・岡林が回り込んで処理すると思われたが、左翼・鵜飼がカットインして捕球。中野は既に一塁ベースを蹴っていたが、送球に手間取る体勢で鵜飼が処理したのを目視して、さらにスピードを上げた。瞬時の好判断で二塁を陥れた。
神走塁は続く。1死二塁。森下は151キロの高め直球に詰まった。中堅への飛球。だが、中野は迷うことなくスタートを切った。見ているこちらは、2アウトと勘違いしたのかと思ってしまったが、打球は岡林の前に落ちた。中野はスライディングすることなく、本塁手前で減速する余裕を携えて先制のホームを踏んだ。
二塁ベース上で基本通りに外野の守備位置をインプットし、直球に詰まった打球音、打球角度、打球速度を計算した上での判断。もちろん風向き、風速も頭に入っていた。村上-高橋宏の開幕投手対決において、大きな先取点だった。
中野は「外野の位置を見て、打った瞬間に自分の上を越える打球スピードで(中堅前に)落ちるかなと。正直ちょっとギャンブル気味ではあったけど、いいスタートが切れたかな」と振り返った。
初回の中日の攻撃。同じく1死二塁。上林の右前打で二塁走者・岡林が本塁に突入し、森下の好返球で憤死した。中日ベンチからすれば、前回登板で完封勝利を挙げるなど開幕から5勝をマークしている村上から多くのチャンスを作ることは難しいという判断もあって、1死一、三塁として4番・ボスラーに任せるのではなく、岡林の足にかけたのかもしれない。だが、結果として先制点は奪えず、右腕の出はなをくじくことに失敗した。その光景を目の前で見ているだけに、自重の心が湧き上がっても不思議ではないはずだが、中野は思い切ってスタートを起こした。
NHKで解説を務めた前阪神監督の岡田彰布氏は中野の走塁に「スタート良かったよね」とうなり、中日側の判断については「あれをストップさせて4番に任すというのがね。結果論ですけど、止まっていれば絶対にアウトにはなることはなかったんだからね」と語っていた。
阪神は失いそうだった先制点を森下が防ぎ、中野の神ジャッジもあって先制点を奪った。一方、中日は先制点を奪い損ねた直後に先制点を奪われた。流れ、勢いは火を見るより明らか。好投手同士による投手戦となり、この1点は1点以上の重みを持つような展開になった。甲子園を本拠地とするチームならではの戦い方でもあった。(デイリースポーツ・鈴木健一)





