【野球】なぜ?巨人の鉄腕・高梨が数値ではなく感覚に特化する理由 データ至上主義の現在、イチロー氏もメジャーに警鐘で話題に
昨季も51試合に登板してチームのリーグ優勝に貢献した巨人・高梨雄平投手(32)。入団から8年連続で40試合以上に登板し、中継ぎ陣に欠かせぬ存在の“鉄腕”は、今も進化を求めて新たなトレーニングに取り組む。その中で大事にしているのが自らの“感覚”。データ至上主義の現在の野球界において、己の感性を磨くことを重視する、その理由に迫った。
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飽くなき探究心は尽きることがない。今オフは沖縄・宮古島の施設へと赴いた高梨。「ここしばらくは何年か前に学んだことをやっていたが、一度、外から知識を入れようと思って学びに行った」と新たなトレーニング方法を吸収したという。
「自分一人の頭でやっているのに限界を感じたので新しい知見を。自分でクリエーティブなものを作り出せなくなったので、新しいものを入れるしかないと思った」
そこで学んだのは、体の使い方。例えば動きの中で腹部から地面を捉える…といった感覚的な部分を磨く作業だ。「感覚的な部分に振っている感じ。時代的には数値を計測してどうかみたいなものがはやっているけど、その真逆」と説明した。
体を正しく使い動かすことで出力を上げ、負担は局所(肩や肘)ではなく体全体に分散。その感覚を体に染みこませていく。その先に「真っすぐは球速も出したいし強さも出したい。打者にしっかり意識させるボールにしたい」と目標を示す。
今のトレンドは数字に則した技術の向上。投球の回転数、回転軸に始まり、さまざまな要素が数値で可視化されるからだ。では、高梨はなぜ自らの感覚に特化するのか。
「数字は振り返りでしかないので。『良い』を知るために数字を使うのは全然アリだけど、数字ありきは違うなと。数字がいじれるのは未来と過去。現在をいじれるのは感覚で、何に主眼を置いて練習のプログラムを組むのか…ですね」
細かい数値を実際にマウンド上で見ることはできない。リアルタイムで投球を修正できるのは自らの感覚だ。ただ、高梨は数字を否定しているわけではなく、新たな変化球に取り組むときなどは数字を参考にしている。
「『良いボール』っていうのは数字だと統計が出る。例えば空振りの多いフォーク、チェンジアップはこういう(回転軸や軌道の)球だとか、そこは肌感覚でやるよりも早いので」。大切なのは数字(データ)との向き合い方ということだ。
米大リーグで活躍したイチロー氏と松井秀喜氏のテレビでの対談で、数字に支配されて感性を失いつつある現在のメジャー野球に警鐘を鳴らしたことが話題となった。
少し話の趣は違うかもしれない。ただ、数字で得たものも感覚として落とし込んで初めて技術となる。高梨が技術習得の効率化と捉えている感性や感覚への特化は、一方で薄れていく野球選手の原点でもあると感じた。
既存と新規の知識を織り交ぜ、思考を前に進める高梨。「肉体の限界はまだ先にある感じ」と話す“鉄腕”が見せる今季の姿に、期待が高まる。(デイリースポーツ・中田康博)