【競馬】もがき苦しんだルーキー西谷凜 “ある先輩騎手”との出会いで立ち直った

試練を乗り越えて飛躍を誓う西谷凜(撮影・石湯恒介)
調教で谷厩舎のハイラブハンターに騎乗する西谷凜(撮影・石湯恒介)
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 28日に中山で終了した「2021ヤングジョッキーズシリーズ」では5位に終わったが、十分に存在感を発揮した西谷凜騎手(19)=栗東・谷。トライアルラウンドは最も少ない4鞍のみの騎乗だったものの、2、1、2、2着で全騎手中最多となる90ポイントを獲得。今年3月にデビューしたばかりのルーキーながらも先輩騎手を抑え、JRA西日本代表(1位)でファイナルラウンドに進出した。JRAではまだ通算4勝の騎手がなぜ、ここにきて開花の兆しを見せているのか。そこにはデビュー後すぐに経験した苦労と恩人との出会いがあった。

 「騎手・西谷凜」を語る上で避けて通れないのが、体重調整失敗での騎乗停止処分だ。デビュー初勝利の翌週、5月1日の新潟1R。騎乗予定だった51キロの斤量への減量中に脱水症を発症。土日ともに乗り代わりになり、開催日2日間の騎乗停止処分を受けた。師匠の谷潔(たに・きよし)調教師と話し合い、5月末までの自主的な騎乗自粛を決めた。

 身長166・5センチは騎手の中では高い方。そのため、体重管理という壁はデビュー前から立ちはだかっていた。「乗馬苑のジュニアチームの頃から、ずっとしんどかったんです。でも、誰にもそれを言いたくなかった。デビューしてからも体重のことばかり考えてしまって…」。誰にも言えない性分。一人で抱え込んだ結果、体重調整に失敗する悪循環に陥ってしまった。

 小沢大仁騎手をはじめ、同期が次々と白星を重ねる中、誰にも悩みを打ち明けられなかった。「もういいかな」と、半ば諦めかけていた6月。騎乗自粛からの復帰初週だったが、まだ51キロで乗れる状態ではなかった。デビュー数カ月で、早くも騎手人生のどん底と言ってもいい状況。そんな若武者に、手をさしのべた一人の先輩ジョッキーがいた。

 松田大作騎手(43)=栗東・フリー=だ。身長は168・0センチで西谷凜同様、減量は簡単ではなく、同じ思いをしてきた。「デビュー前、大作さんに“つらかったら相談してきて”と言われたのを思い出して、ここまで落ちてしまったのならダメ元でもと思って。そしたら“来るのを待っていた”と。いろいろ教えてくださったり、親身になって話を聞いてくださったりしました」。勇気の一歩を踏み出し、胸のつかえが下りた。

 翌週から一緒に減量を開始。当時は北海道滞在中のため、競馬場の調整ルームでランニングやサウナで汗を流した。トレーニングはもちろんのことだが、「気持ち的なところが一番大きかった」と、松田が精神的支柱となったことで効果は増大。少しずつ、形としてそれが表れた。

 象徴的だったのは7月11日の函館2R。これまで乗れなかった51キロでジュノエスクに騎乗し、10番人気ながら勝利に導いた。「うれしかったですね。大作さんがいなければ、立ち直った僕もいませんから。人生を変えてくれた恩人です。本当に感謝しています」。1着という結果以上に、大きな収穫があったデビュー2勝目だった。

 以降は冒頭に記したヤングジョッキーシリーズトライアルを皮切りに、成績は右肩上がり。12月11、12日には中京で7番人気2着(デルマシルフ)、14番人気2着(バーニングソウル)、12番人気1着(アルムマッツ)と騎乗機会3連続で人気薄を激走させるなど、穴党には目が離せない存在となりつつある。「自分の感性でレースを分析してきたのが徐々につかめてきたというのはありますが、(減量の)不安がなくなったというのが大きいですね。あの時を思い出すと、この先どんなにつらいことがあっても大丈夫です」。将来を見据えるそのまなざしには、力強さが宿っている。

 今年は“出遅れ”もあって同期デビュー組の8人では最少の4勝に終わってしまったが、もう気持ちでは負けていない。人間は苦難を乗り越えてこそ強くなる。2022年は西谷凜が、それを体現してくれるはずだ。(デイリースポーツ・山本裕貴)

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