【野球】忘れられぬイチローの言葉「これがプロの練習です」

 あの衝撃、あの言葉は忘れられない。2008年2月、記者がまだ11歳の頃に一度だけイチロー(当時マリナーズ)の練習をオリックスの本拠地・スカイマークスタジアム(現ほっともっとフィールド神戸)で見学したことがあった。

 機会は突然訪れた。メジャーのスプリング・キャンプを控え、渡米を控えた前日、国内で最後の自主トレに励んでいた。野球少年やファンらが一目見ようと球場に足を運んだが、練習は通常非公開。練習は見られないだろう…と諦めかけていた時に関係者が告げる。

 「イチロー選手がファンの皆さんに練習を見ていいですよと言っています。どうぞ球場にお入りください」

 「フン」という声を出しながら、フリー打撃を行うイチローの姿があった。2004年にメジャーリーグ新記録の262安打をマークしたというイメージが強かっただけに、ヒットメーカーの印象があったが、右翼方向へ何球も柵越えを連発。思わず目を奪われた。

 ある野球少年が「ホームランばっかり」とつぶやき、その発言を拾ったイチローが「あの~、ホームランは狙ったら打てるんだよね」とニヤリ。打者・イチローのイメージが大きく変わっていく。

 ファンの前であいさつしたイチローが言い切った言葉も忘れられない。

 「これがプロの練習です」

 卓越した技術、センスから裏打ちされた自信のようなものだろうか。きわめてシンプルな表現だが、イチローが発する言葉の重さを感じた瞬間でもあった。

 その後も第2回WBC決勝・韓国戦の決勝打や日米通算4000安打などの活躍を、テレビを通して見てきたが、この打席は本塁打を狙って打ったのではないかと今でも思い浮かべるシーンがある。

 13年6月25日。ヤンキースに所属するイチローがレンジャーズと対戦した試合だ。3-3の九回1死一塁で打席に入ったが、一走が初球に二盗を仕掛け、失敗し2アウトに。カウント1-2からの4球目、シェパーズの156キロツーシームを一閃。完璧に捉えた打球は右翼席に突き刺さり、サヨナラ本塁打となった。

 「『もらった!』なんて(気持ちは)ないよ。ないないない。目をつぶって打ってはないけど、そういう感じに近い。もう思い切り、来た球をガーンっていう全然深みのない打席。ただ来た球を振ったら行った」

 翌日のデイリースポーツに掲載されたイチローのコメントだ。「狙って打った」という直接的な表現こそはないが、フルスイングすることだけを決めた中で一発で仕留められる技術の高さは、まさにプロの技に違いない。

 12年前にその姿を目の当たりにし、メジャーリーガー・イチローを取材する機会が訪れればと夢を抱いてきたが、昨年3月に現役を引退。現在は草野球チーム「KOBE CHIBEN」を率いる。当時の話を踏まえつつ、いつかイチロー氏を取材する機会に恵まれたらな、と今でもひそかに思っている。(デイリースポーツ・関谷文哉)

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