【野球】バティスタ出現は広島の心意気

 「25年以上、種をまいて、実りつつあるものだから。それは単にお金だけの問題ではないよ」。

 広島・鈴木清明球団本部長の言葉だ。6月に支配下登録されたサビエル・バティスタ内野手は、3日のロッテ戦で、代打でプロ初出場し、初打席初本塁打を放つという衝撃的デビューを果たした。実はシーズン前、非公式ながら他球団が獲得の触手を伸ばし掛けたという。ドミニカ・カープアカデミー出身で手塩にかけ育ててきたプライスレスな存在。手放す意志はなかった。

 広島は、メジャーリーグのアカデミー制度を参考に日本球界で初めてアカデミーを設立。バティスタの活躍で、この場所は再び大きなスポットライトを浴びた。だが、ここまでの道のりは平たんではなかった。映画「フィールド・オブ・ドリームス」さながらで、自らも現地で球場作りなどの指揮を執った鈴木本部長は当時を懐かしそうに振り返った。

 「湾岸戦争があって、油が入ってこなかったとき。現地の人だけには任せていられなかったから、自分たちも手伝った。ポケットにチョコレートを入れて、頑張った人に渡していた。球場のフェンスを取り付けたら、翌朝には切り取られていたこともある。電線も取られていた」。さらに開校式には大統領などが参列するため、球場横にヘリポートを突貫工事で新設。完成に安どしたのをよそに、電線などの関係で結局はグラウンド内にヘリコプターが着陸したという。カルチャーショックを受けながら苦笑いしたことも、今では良い思い出だ。

 高額年俸で助っ人を獲得してくるのとは対照的に発掘や育成を目的とした球団の動きは、画期的だった。それは球団創設時から受け継がれるスピリットからかもしれない。過去、球団消滅の危機に、市民がたる募金を行い、チームを支えた。アカデミーの運営費は、年間1億円以上がかかり、選手を輩出できなかった時期は、その存続意義さえ問われた。「高い年俸を払って選手を連れてくるのが効率的かもしれないけど、うちのチームは違う」と本部長。続けて「育てて、うまくした方が応援してもられる」。育成型球団としての姿勢は、決してぶれなかった。

 「優勝に貢献してくれたらうれしい」。アカデミー出身選手が中核を担えば、チームはさらに強くなる。(デイリースポーツ・市尻達拡)

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