担当スカウトが振り返る藤浪の1年目
野球ファンの注目を集めた藤浪のルーキーイヤーは10勝6敗、防御率2・75で幕を閉じた。新人特別賞を受賞するほどの活躍だったが、担当の畑山スカウトに驚きはなかった。高校時代から右腕の成長を見守る同スカウトが1年を振り返った。
「これくらいやれると思っていたよ。ボール自体は十分、プロで通用すると思っていたからね。1年間を通して投げるというのは、未知数だったけどね」
2013年は畑山スカウトにとっても特別な1年だった。2月の沖縄キャンプは、担当スカウトとして異例の帯同。シーズンに入っても時間の許す限り、登板をチェックした。予定が合えば甲子園や京セラドームまで足を運び、登板後には必ずメールを入れた。
そんな畑山スカウトが今季、最も印象に残った登板は、4月28日のDeNA戦(横浜)だという。三浦大輔と投げ合い、プロ3勝目を挙げた一戦だ。春先、絶好調だったブランコに対して真っ向勝負を挑んだ姿に、藤浪の本能を感じ取った。
「投球フォームに躍動感があって、気迫が伝わってきたよ。投げた後に、飛び跳ねるような感じでね。高校時代は別格で、完全に見下ろして投げていたような感じだったから」
その後も藤浪の快進撃は続いた。オールスターに選ばれ、8月度の月間MVPに輝くと、球団では67年の江夏豊氏以来となる、高卒新人2桁勝利を達成。それだけに、未勝利に終わった9月以降の投球には物足りなさが残ったという。
「フォームに若さがないというか、まとまっている感じだった。ローテーションを任されて、ゲームを壊してはいけないと思ったのかもしれない。少し、消化不良だったね」
プロ入りまで藤浪が歩んだ道のりは、決して順風満帆だったわけではない。畑山スカウトが初めて藤浪を見たのは、大阪桐蔭に入学した2010年の春。第一印象は今でもはっきりと覚えている。
「体は大きいけど、時間がかかると思ったよ。あの背の高さで成功した前例も少なかったから。これからどんな感じで成長していくんだろうと。大谷(日本ハム)のように投げ方がきれいな訳じゃないし。晋太郎の場合は我流。センスがあると感じさせる投げ方ではないから。間違いなくプロに行く、とは思わなかったね」
とても2年後にドラフト1位で指名される選手になるとは、想像できなかったという。さらに、高2までの藤浪には「ここ一番で勝負弱い」というマイナスイメージが付きまとった。夏の大阪府大会は決勝で敗れ、甲子園出場を逃すと、秋季大会も準々決勝で敗退。風向きが変わったのは、高3春に出場したセンバツ大会だ。初戦の大谷(現・日本ハム)擁する花巻東から甲子園初勝利を挙げると、勢いに乗り全国制覇。プロ注目の選手として出場した夏の甲子園も制し、甲子園春夏連覇の偉業を成し遂げた。自ら負のイメージを払拭し、周囲が驚くスピードで成長を続けた。
プロの舞台でも順調にエースへの階段を上る右腕。野球ファンの関心は、藤浪の2年目の成績に移っている。畑山スカウトは期待を込めて、こう語った。
「イニング数を投げて、今年の成績は最低限クリアしてほしい。負けは勝ち数の半分でね。15勝できる力は持っている。やれないことはない」
そして数年先には、藤浪と同じように高校時代に甲子園を沸かせたダルビッシュ(レンジャーズ)や田中(楽天)のような、球界を代表するエースに成長してほしいと願う。
「みんな期待しているからね。そうなってくれるもんやと、思っているよ」
今や藤浪は、チーム1の人気者だ。このオフは練習を続けながら表彰式やイベント出演など、慌ただしい日々を送った。「ご飯に行こうって言ってるんだけどね。晋太郎も忙しいそうだからね」。畑山スカウトは嬉しそうに笑った。
(デイリースポーツ・杉原史恭)