アメリカから見ると驚愕……「代行」仕事が多い日本、これってありなのか?「人を幸せにする嘘はある」
依頼された人間が日常のさまざまな役を演じ、依頼者の周囲の者と、依頼に沿った様々な関係を築いていく。そんな仕事を日本に住むアメリカ人俳優が請け負ったら・・・。
大阪出身で現在アメリカを拠点に活躍するHIKARI監督が、2019年に話題となった『37セカンズ』に続く長編第2作として放つ『レンタル・ファミリー』。主演は、なんと『ザ・ホエール』(2022年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した直後のブレンダン・フレイザー。故郷の大阪で監督に話を訊いた。
取材・文/春岡勇二
■「レンタル・ファミリー」のような会社は日本中に300社──作中では、とある女性の新郎役に扮したり、父親の顔を知らない少女と親子になって入学試験の面接に臨んだりと、誰かの代役を務める「レンタル・ファミリー」について描かれますが、監督がこういった仕事をおこなう会社があると知り、興味を持たれたのはいつ頃のことですか?
『37セカンズ』が公開された2019年の末頃にこんな仕事があることを知り、調べたら「レンタル・ファミリー」のような人材派遣の会社が日本中で300社もあったんです。これはちょっと面白いかもと、そこからリサーチしていきました。
初めはこういった仕事に関して少し暗いイメージを持っていたんです。すると確かに寂しい、悲しい出来事もあるんですけどそうでないこともたくさんあるとわかってきて。
──さらに関心が深まる話を聞かれたわけですね。
そう。例えば、結婚式で家族を演じたのがきっかけで、以来ずっと家族として月に一度は食事を共にする、そんな交流を続けているという話が実際にあって。それを聞いて、そうか、こういう仕事で人と人が出会い、つながっていくということが本当にあるんだと思い、それが今回のストーリーのベースになりました。
──監督が資料のなかで語られている、仮の”役”を演じることで始まって、いつしか、そのコミュニティの中でしっかりとした関係を築いているということですね。
もう一つ、この映画を作る決め手になった話がありました。それは病床にあってずっと娘に謝りたいと思っていたお父さんがいたんです。でも、もう長い間連絡もしてなくて会うことができない。そこで娘を演じてくれる人を雇ったんですね。そうして二人は父娘として”再会”し、そこでお父さんは娘に心から謝ることが出来て、その後、安心して亡くなられたという話なんです。
──再会は嘘、偽りかもしれないけれど、謝罪は本物だし、それでお父さんは安堵して旅立つことが出来た。こういう嘘はあっていいですよね。
人を幸せにする嘘ってあると思うし、そういう嘘はついていいと思います。「嘘から出た誠」って言葉があるように、初めは嘘でもそれがほんとになるってこともきっとあるでしょうし。このお父さんは娘に謝りたいと思った時点で彼の魂は一つ成長していると思うんです。
そしてそれを具現化出来たことでなにものにも替えがたい平安を得ることが出来た。それが嘘の場であってもなにが悪いのって思うんです。お父さんにとって娘と会ったことはまぎれもないリアルなんです。「レンタル・ファミリー」というのはそういう場、機会を与える仕事だと思ったんです。それで、これを映画にしようと決めました。
■ 日本で多い代行の仕事は「謝罪」という現状──人を成長させ、心に平安をもたらす機会を与える仕事、ということですね。
人は誰でも、なんらかの失敗をします。でも、失敗は悪いことではないんです。人は失敗によって多くを学び、成長するんです。大事なのは失敗にどう向き合うか。だから私は主人公のフィリップが「レンタル・ファミリー」の業務内の失敗から学ぶきっかけをつくったんです。
ただ、代行業でも、いま重宝されている「退職代行」は違うと思っています。会社を辞めたいのなら、その意思を自分で伝えるべきです。そして、理由もきちんと相手に伝える。そうしないと、相手に悪いところを気づかせることもできないし、「退職代行」を利用したあなた が白い目で見られる。その場しのぎで適当に終わらせても、またそれの繰り返し。ネガティブのループに陥りかねません。
──映画の中で描かれている謝罪の代行もそうですね。謝罪こそ最も誠意をもってすべきことでしょうに。日本で多い代行の仕事が、謝罪というのには正直呆れました。
だから、映画の中で謝罪の仕事を請け負う、山本真理さんが演じてくれた愛子さんは、途中でこれは違うと気づいて仕事を放棄します。彼女は自身の正義に誇りをもって従ったんです。今もし自分のために一歩を踏み切れない人たちがいたとしたら、この方々へのメッセージとして伝えたいのです。
──退職代行や謝罪代行が重宝されているというのは、いまの日本がいかにストレスフルなのかを示しているようにも思います。
日本にスナック・バーが多いのはそのためだと思いますよ。お酒を片手に愚痴を言ったり悩みを吐露したりする。それで少しでもストレスを発散させる。スナックはその場としての機能をはたしていると思います。実は初め、そういったバーがなぜ日本に存在するのかというセリフを考えていたのですが、撮り進めるうちに要らないと思いやめました。
──こういう見方に、高校生のときにアメリカに渡って、いまもLAを拠点とされている監督ならでは、日本を外から見る視点が感じられるように思います。
それはあるかもしれませんね。さまざまな代行業を描く、この「レンタル・ファミリー」はドラマチックにしようと思えば、まだいくらでも題材はあるんです。だから、ずっと日本にいて活躍なさっている監督さんが撮られたら、おそらく私が作ったものとはまた違うものが出来上がるでしょうね。
■ 6時間話し込んで…ブレンダン・フレイザーと意気投合──ただ、その場合、主演にオスカー俳優であるブレンダン・フレイザーを起用するのは無理でしょうね(笑)。彼にオファーされたきっかけを教えてください。
彼がオスカーを獲得した『ザ・ホエール』の劇場試写会に参加していたんです。上映後にオンラインで彼との質疑応答の時間があって。映画館の巨大なスクリーンに彼の大きな身体が映し出され、質問に誠実に答える彼の姿に、「ああ、私のフィリップはこの人かもしれない」って思ったんです。
その後の順番はどうだったか覚えていないのですが、脚本を送り、実際に会って話をして、それが結局6時間も話し込んでしまって(笑)。
──オスカー受賞直後の仕事に選ばれるというのは大変なことですよね。
そう思います。彼の元には山のように脚本が届けられていましたし。彼が以前から日本を好きでいてくれたことも大きかったと思います。撮影に入りひと月前から日本に滞在して、多くの人に話しかけて馴染んでくれてました。彼は本当に誠実に、作品に参加してくれました。彼に出てもらって良かったです。
──他の出演者の方たちはオーディションですか?
安藤玉恵さんや板谷由夏さん、宇野祥平くんは以前から親交があって、直接オファーしました。あとの人はオーディションですね。祥平くんに「小さい役だけど、いい?」って訊いたら「出ます、出ます。どんな役でも出ます」って言ってくれて。
玉恵ちゃんは「この歳で風俗嬢、やれるかなあ」って言うんで、「大丈夫。風俗嬢というよりセラピストだからって口説きました」(笑)。
──3人とも出演シーンは多くないですけど、印象的なお芝居をされてます。先ほど話に出た、主人公の同僚の愛子を演じた山本真理さん、少女役のゴーマン シャノン 眞陽(まひな)さんも素晴らしかった。
山本真理さんは日本生まれロンドン育ちで、NYで演技の勉強をして、いまはNY在住で、俳優の他に脚本家、プロデューサーとしても活躍している才能豊かな女性です。シャノンはともかくピュアな子で。
「話しかけられたら懸命に話を聞いて。わからなくてもいいから、相手役の話をしっかり聞いて、素直に反応して」と伝えたら、その通りの演技をしてくれました。
──この作品で、日本映画界はこの二人を”発見する”ことになると思います。「レンタル・ファミリー」社の社長役の平岳大さんも良かったし、依頼者側の人間で老名優役の柄本明さんが作品を締めています。
平さんは、私ととても気が合って(笑)。すごくいい人なのに、これまでに悪役を多く演じてこられていて。今回もちょっとだけ悪役的な部分も入れてくださって。英語も流暢で素晴らしかった。柄本さんは、次、何をするのかわからない魅力があって。撮っていてもいつもワクワクしました(笑)。
──ブレンダン・フレイザー演じるフィリップと、周りのそれぞれのキャラクターとのふれあい、そしてさまざまな「絆」が築かれていく様子がほんとに素敵でした。
この映画は人と人の出会いとつながりをポジティブに描いた作品です。なので、観てくださった方が、これまでふれあってきた人たち、ご家族でもご友人でも、しばらく会ってないな、どうしてるかなって思っている人たちに思い切って連絡をとってみる、映画を観てそんな気持ちになってもらえたら嬉しいですね。
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映画『レンタルファミリー』は、2月27日から公開される。
写真/Lmaga.jp編集部
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