山下氏、横浜・渡辺前監督対談【5】

 デイリースポーツ評論家の山下智茂氏(71)=星稜総監督=が高校野球の未来を考える企画の第6弾は特別編。昨夏に監督を勇退した横浜の前監督、渡辺元智氏(71)を訪ねた名将対談となった。2人は、自分たちの若き日の失敗や教訓、現役指導者への思いなどを熱く語り合った。

  ◇  ◇

 -松坂で春夏連覇した98年夏の3回戦でも対戦している。

 渡辺元智氏(以下、渡辺)「うちはあの試合が大きかった。星稜戦の前に新垣(現ヤクルト)の沖縄水産や杉内(現巨人)の鹿児島実が敗退し、選手は油断していた。星稜には米沢といういい投手がいたのに。私は怒ってミーティングに出なかったんです。それで選手は焦った。後藤(現DeNA)はバッティングセンターで練習しすぎて腰を痛めてしまった(苦笑)」

 山下智茂氏(以下、山下)「うちは逆で、五回まで0-1で行けば、相手が焦るから勝てるぞと言っていた。『エラーしなければ勝てる』って。実際に初回に先頭打者の小池(現DeNAコーチ)にバックスクリーンに本塁打を打たれて『よし、はまった』と思ったくらい。でも、0-1の三回2死二、三塁で松坂のゴロを遊撃が焦って悪送球。2点取られた。松坂から3点は取れないと一気にムードがしぼんだ」

 渡辺「いろいろひもとくと何かつながりがあるもの。目に見えないような。それに気づくとささいなことをおろそかにできない」

 2人「わからないもんだね~」

 -小さなきっかけが結果を左右する。

 渡辺「われわれは日常生活の中で結構教材になるものを無視しちゃってるね。もったいない。私生活の中にいくらでも野球がうまくなる要素がある。ゴミがあったら拾うように、石があったら拾う、それにボールが当たってイレギュラーしたらどうするか考える。いい選手はでこぼこを足でならしている。イレギュラーしたとしても、土を直した中でのイレギュラーと直さない中でのイレギュラーは違う。細かい姿勢がいろんなとこで生きてくる。2時間ちょっとのゲームは、大げさに言えば死刑衰弱。その中で大胆にやれるかどうかにかかっている」

 -データ、理論と口で言うのは簡単だが、甲子園でやるのはいかに大変か。

 渡辺「甲子園に行ってすぐできるかは普段の習慣。常に備えがないと。たとえたった一度しか出ないようなプレーでもそれは備えてやっている。一度身についたものは緊張するといい形でプレーできる場合がある。何もやってなかったら、こんなプレーやったことがないよ、となる。負けた中に“しょうがない”というのはいくらでもある。今は皆やるけど、例えばセンター返しで投手を抜けて二塁が飛びついた。飛びついたら間に合わない。しかし、練習で遊撃にトスしていれば、それでアウトになるケースがある。普段からそこまでやっているかどうか。二塁が飛びついて内野安打ならしょうがない。でもそれをアウトにしたら後に点が入らなかったかも。それをやるのが練習。いい習慣を身につける」

 -今後、30、40代の指導者にはどういうこと指導を望む?

 渡辺「その時代の中で尊敬されるような人間になってもらいたい。高校野球だから勝ちたいのは当たり前。常勝軍団をつくりたい。でも、過去の監督さんは、選手と一緒にやって人間的にすばらしい人の名が残っている」

 山下「私も同じ。やっぱりいくら技術がうまくて優勝しても、何だあの監督は?と言われる人は長続きしない」

 渡辺「野球の能力はみんなある。野球の細かいものを教えてもらいたかったらプロや社会人、大学もやっている。でも、高校は一番多感な時期。高校野球を通しての人間教育です。我慢して耐えることを覚え、思考して頭を使って立ち上がる。この前、新人研修で言っていた。時間の無駄だからメールの方が楽ですよって。でも、最後は人間対人間。おじさんのへりくつなんですが、溝を埋めない限り平行線になる。それが温故知新。いいものは残していかないといけないし、われわれも改めないといけない。IT産業全盛、システムが人を動かす時代。壁にぶつかった時は、先人たちの知恵が解決してやらないといけない。何だ古くさいな、山下、渡辺は古くさい、でも古くさいところに生きるすべもある。人間対人間の心の交流が希薄になっているから、(教え子で現横浜監督の)平田も勢いのいい時はいいが、土壇場で壁にぶつかった時に弱い。必ずそういう時期が来る。そこを教えたい」

 山下「去年の秋にうちの(元星稜監督で教え子の)林も負けて、グラウンドにぽつんといたからお前も一人前になってきたなと言った。オレもグラウンドでよく寝たよ。神がお前に試練を与えた。お前もここで寝ろって」

 -耳の痛いことを言う人は必要だ。

 渡辺「異業種の人、100人くらいの例会が毎月あっていろんな人が話をして非常にためになる。お坊さんからは、お前の頭の下げ方は何だとかいろいろ教えられた。行くところ行くところボロクソだった」

 -実践教育で多角的な物の見方を学んだ。

 渡辺「野球の世界の器で見ていたら、野球が見えなかった。井の中の蛙(かわず)大海を知らずで」

 山下「私自身、昭和40年代、50年代はずっとオレがオレがとやっていて、生徒からボイコット受けた。(箕島との)延長十八回をやって、野球観とか人生観が変わった。尾藤さんの笑顔でくそったれと思って顔の研究をし始めて人の心が読めるようになり、そこから人の話を聞くようになった。僕ら教員は教えるのはプロだけど、いろんなことを全然知らない。今の監督さんはそういうことも勉強しないと。野球だけじゃなくて。自分も勉強していかないと生徒の心を鍛えるとはできない。心を教えることが一番大切だと思う」

 渡辺「私は人脈に恵まれました。野球人以外の」

 山下「だから全国制覇が5回もできる。人脈が違うわね」

 渡辺「人間力、山下智茂さんが何を言う(笑)。小学生、中学生の親に話をして上げたいね。見守ることが大事。親の思うとおりにしようなんてとんでもない。昔は肉親の犯罪がこんなにはなかった。豊かになったけど、豊かさプラス精神力が伴ってこそ」

 -子供の怒り方も難しい。

 渡辺「よく生徒を観察して、怒る時はみんなの前じゃなく個室に呼んで、いいか、いいかってこっちが役者になる。少しは痛みを感じろって。このままじゃダメになるぞって。行きすぎたと思ったら、必ず家まで追いかける。僕らは経験してきたから。でも、今は怒り方がわからない。あえて言うならいい時代だったかもしれない。だから立ち上がれる」

 山下「生徒が減ってきているし、野球の楽しさとか、そういうものを教える指導者が出てこないと、サッカーにとられてします」

 渡辺「野球普及活動だね。親たちに(子供に)楽をさせようという気持ちがある。楽と楽しいは字は同じだけど、楽イコール楽しいじゃなくて、苦しさの中に楽しさがある。子供たちには段階を踏ませればいい。楽しくどんどんやらせて、小、中学は思い切り楽しくやらせて、だけど厳しいんだよと教えていく。我慢することを覚えよう。人生論から説いていく方がいい」(終わり)

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