山下氏、横浜・渡辺前監督対談【2】

 デイリースポーツ評論家の山下智茂氏(71)=星稜総監督=が高校野球の未来を考える企画の第6弾は特別編。昨夏に監督を勇退した横浜の前監督、渡辺元智氏(71)を訪ねた名将対談となった。2人は、自分たちの若き日の失敗や教訓、現役指導者への思いなどを熱く語り合った。

  ◇  ◇

 -野球をやる意味も変わってきた。

 渡辺元智氏(以下、渡辺)「親が、野球をうまくしてプロ野球に入れて下さい、松井のように松坂のようにして下さいと言って来る。でも、それじゃダメ。ここで甘やかしていいのか。耐えることを覚えさせなさい。親は先に死ぬんだから。そのための野球でしょ、って。三つ子の魂100まで。小さい時にお尻つねってだめだよって叱られてないから、今はいきなり金属バットで殴りかかる。昔は頭なんて殴らない。そんなこともすべて野球に影響している。とにかく、山下先生の人間野球がだんだんすたれてきた。プロもそうでしょ?」

 山下智茂氏(以下、山下)「そうですね。若い指導者が限界を教えることができなくなったんだよね。プロや社会人で活躍できる選手は自分の限界を知っている。でも一人一人の限界は違う。今日はここまで、翌日にこの限界をさらに伸ばしてやろうとするけど、それをすると親が出てくるからね。僕らが若い頃はそれができた。PL学園や横浜のOBが活躍したのは、それぞれ限界を知っているから。でも、甲子園で優勝してもプロ、社会人、大学でもだめな子もいる。選手の能力だけでやって勝っているだけであって、それプラス鍛えなきゃと思うけど」

 -指導方法はどうやって習得したのか。

 渡辺「自分で考えたと思う。自分が高校野球で生きていくためにはどうしたらいいかと考えると、選手を大事にしなきゃいけない。選手は財産だからつぶしたら困る。いい選手がやめたらどうしてやめたのか、そこに目を向けないと。だから努力した。愛甲(猛)なんて途中でやめてしまって何回も足を運んだ。もうだめかと思ったけど、そこに至るまでに家庭環境がわかる。父親がいなくて母親が一生懸命一人でやっている。そういうところに気づくと学校に理解してもらって、長く置いてもらわないといけないと考える。生徒教育と勝たせるための技術。どちらも考えなくてはならない」

 山下「今の若い人は監督同士が集まって情報交換するでしょ。僕らの頃は遠征は夜汽車に乗って広陵や広島商、松山商や高松商や土佐に行って、これだけやらなきゃ日本一になれないのかと知った。北信越で勝とうと思い、松商学園などに行って、目標設定をしてチームづくりをやった。今そういうことを自分でやろうという若い監督さんはなかなかいないよね。みんな集まってわいわいと。だから野球が個性がないというか、おもしろさがないというか」

 渡辺「私は野球を日本に置いていったマッカーサーに会いたくてね。その後、石井藤吉郎さん(元早大、水戸商監督)に会いたくて、わざわざ大洗にキャンプを張った。石井さんの話、奥さんの話が聞きたくて。その人に会ってみないと実際にわからないから。北陸に山下さんってすごいのがいると聞いて、最初はこわごわ会ってました(笑)。それで初めて山下さんのよさがわかる。その人を知らない限り、その人を超えられない」

 -当時は監督同士で腹を割って話さなかった。

 山下「話さなかったよ。(北信越のライバル福井商の)北野監督なんて、(一緒の場所で)弁当を食べててもあっち向いてこっち向いて(笑)。今考えたらアホなことだと思うけど『打倒江川』と胸に書いたり、東海大相模のタテジマや(横浜の)グレーのユニホームに『松坂』と書いたりしていた。現役でやっている時にはおかしいとは思わない。勝ちたいから。今はそういう人はいないね」

 -渡辺氏は甲子園塾の講師を最多の3度務めている。

 山下「私はもういいよといいながら、初日からキャッチボールはこうとか投手はこうとか動き回っている(笑)。説得力があるよね。今の若い人は、言葉で松坂がこうとか涌井がこうとか言うと意外と聞く。そういうところはうまいと思う」

 渡辺「子供を指導するのは難しくなっている。だからこそ、子供が努力するんじゃなくて先に生きている大人が子供を理解しないといけない。そして、親。つくづくこれから難しいなって思う。山下先生の言う人間力野球という表現は普通の人が言ったらキザ。でも、経験、失敗から学んだ哲学があるから心に届く。若い時は1に全国制覇、2に全国制覇。その後、苦しみの中に没入していくところに徳が出る。何の変哲もない白いボールの中にも人生がある。最終的には、人生の勝利者たれという格言を選手に託すことができた」

 山下「渡辺さんはよく『野球は教育の一環じゃない。教育そのもの』って言う。そのとおり」

 -50年近い監督生活で変化はあった?。

 渡辺「振り返ると5つくらいの変遷があった。最初の10年くらいはひたすら優勝したい。甲子園の監督になりたい。そうすると選手に厳しくしないといけない。日本一厳しい、長い練習をする。1つバント失敗したら、1時間正座してろ。投手が打たれたら、2試合分座ってろ、帰ってくるまでずっとランニングしてろ。でも、山下先生も僕らも本当に真剣だった。(打撃練習で)包帯で結わいてそのままやらせる。朝まで。監督をバットで後ろから殴ってやろうというのも結構いましたよ。だけど、こんなにまでやってくれるという思いもある。一緒に苦労をしてくれるから、間違っててもいいや、ついていってみようと単純に思う。するとだんだん結果もついてくるようになった。昔の監督はそうじゃなかったかな」

 山下「今の監督さんはノックで鍛えるというのがないよね。愛情たっぷりのノックでコミュニケーションをとる若い監督さんが見られなくなった。もう少し選手と一緒になって鍛えていかないとと思うけどね」

 -体罰との境界線は。

 渡辺「その境界線の向こうを見ないと、閉ざされた塀の中の世界になる」

 山下「愛が人を動かすんだから、愛情が足りないんだと僕は思う。僕は自分の子供より生徒がかわいかった。生徒の方を飯を食べに連れて行ったりしていた。それほど生徒が好きだった」(3に続く)

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