【ボート】ファンに応えることが美技

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 ある日、住之江ボートのピットに「無事故完走 これぞ美技」という張り紙を見かけた。ボートレースにおける事故にはいろいろあるが、その最たるものはやはりスタート(S)事故。つまり「フライング」(F)ではないだろうか。

 Fを犯すと、選手はあっせん辞退をしなければならない。1期間(5~10月、11月~4月の半年間)で1回目は30日間だが、2回目は60日間(計90日間)3回目は90日間(計180日間)とFを重ねるごとに辞退期間がかなり長くなる。また、犯した舞台が特別なもの(SGやG1の優勝戦など)であれば、SGやG1に出場できないなど、さらに厳しい処分が追加される。施行者側はF返還制度(Fを犯した選手が絡む舟券は全て払い戻し)で大幅な収入減となるし、ファンはハズレ舟券が返還されて助かったケースがあるものの、的中していたはずの舟券が返還だったり、的中したとしても配当が減額されたりと、どこかやりきれなさが残る。このように、どの立場から見ても喜ばれることのないF。そう考えると、「Fを犯さない」=「美技」というのは納得のいくところではある。

 そんな中、10月末に行われた尼崎ボートの一般戦に田頭実(46)=福岡・58期・A1=はF2で参戦。この節は台風の影響があって天候は不安定。また期末でもあり、選手はSを控える傾向があった。そのような状況下でも、田頭はSをぶち込んだ。6日間、全11走でトップSは8回。2日目はゼロ台を連発した。取材した際、田頭は「Sを行くのが自分のスタイル」とキッパリ。このコメントは実に印象的だった。F3という身でG1を制した(05年若松のダイヤモンドカップ)こともある田頭にとって、F2でSを踏み込むのは簡単なことかもしれない。そしてファンも「田頭はSを行ってくれる」と信じている。そして田頭もファンの気持ちを分かっているのだろう。

 私は「攻めた結果ならしょうがない」とFを肯定するようなことは考えていない。「ファンの期待に応える」ことがプロにとって最大の「美技」と思いたい。

 彼らが戦っているのは、我々が普段感じることのない、100分の1秒の世界。簡単なことを口にできないが、それでもやはり、ギリギリまで攻め抜く選手を私は応援したい。(ボート担当・上村武馬)

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