「平和ボケ。そこがウクライナの教訓」核兵器を安易に放棄しロシアに グレンコ氏が「覚書」への過信を指摘

 ロシアのウクライナ侵攻から半年が過ぎたが、こう着状態のまま先行きは見えない。ウクライナ出身で、現在は日本を拠点に活動する国際政治学者のアンドリー・グレンコ氏(34)がこのほど、ジャーナリストの深月ユリア氏が司会を務め、都内で開催されたシンポジウムに自民党の石破茂元防衛大臣らと共に参加。母国の現状とその背景について解説した席上、石破氏の問いかけによって、ウクライナ情勢の根本的な問題につながる事象として「ブダペスト覚書」を俎上(そじょう)に載せた。

 「ブダペスト覚書」とは、1994年にハンガリーの首都ブダペストで開催された欧州安全保障協力機構会議で、米国、英国、ロシアの核保有3か国が、核不拡散条約に加盟したウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの3か国の安全を保障するという内容で署名したもの。ウクライナは旧ソ連時代の核兵器を放棄して非核保有国になったことによって、この覚書で“守られる存在”になったはずだったが、ロシアは2014年にクリミア半島、ドンバス地方へと軍事侵攻しており、既に8年前から覚書を破棄した状態となっている。

 その歴史的事実を踏まえ、石破氏は「グレンコさんに教えていただきたい。ブダペスト・メモランダム(覚書)を信じたばかりに、ウクライナは核兵器をロシアに渡してしまって、あのようなこと(ロシアの侵攻)になりました。ブタペスト・メモランダムには『守ってあげる』なんて1行も書いていないのに、なぜ、ウクライナの指導者たちはそれを信じて、ロシアに核兵器を渡してしまったのか?…みたいな話が、あまり議論になっていない。そこをうかがいたいです」と問いかけた。

 グレンコ氏は「クリミアやドンパスを占領後、(ロシアは)ブタペスト覚書を破ったと言われるようになったが、(もう一方で)米国がウクライナを守らなかったことについて、『米国もブタペスト覚書を破った』とウクライナ国民は思った。だが、そもそも、この覚書で米国はウクライナを守る義務を負っていなかった。だから、ブタペスト覚書のひどいところは、米国がそれを破ったことではなく、破っていなかったこと。つまり、覚書を米国が破ったということなら、米国に対して文句も言えるが、破っていないし、そもそも、そういう義務を負っていなかったから、(米国側としては)文句を言われてもね…という話なんです」と問題点を指摘した。

 その上で、グレンコ氏は「当時のウクライナの指導者も含めて、覚書の内容をちゃんと理解していなかった。覚書に『署名国はウクライナに対して武力攻撃をしない』、『ウクライナが侵略を受ける時には国連安保理においてしかるべき問題提起をする』と書いてあって、ロシアがウクライナに侵攻した時、英米は国連安保理で問題提起した。その内容は確かに履行している。でも、問題提起したからといって、安保理がこの侵略を解決するわけではない」と説明した。

 「なぜ、あんな(覚書の)いい加減な内容を信じたかというと、当時のウクライナの指導者も国民も、何かあった時には、何かしてくれるから大丈夫くらいの認識だった。それで、核兵器をロシアに渡してもいいと思っていた。当時のウクライナ社会では核兵器に関する認識が絶望的になく、その無知ゆえに、核兵器を安易に放棄した。同盟国の米国が武器を持っているからいらないと。物事の本質を見ず、(覚書の)条文をイメージで信じてしまっていた。簡単に言うと平和ボケしていた。そこがウクライナの教訓です」

  グレンコ氏はウクライナ人として自戒を込め、そう言い切った。「平和ボケ」。それは、ウクライナだけでなく、今後の国際情勢を踏まえて、決して他人事ではない。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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