【ヤマヒロのぴかッと金曜日】さよなら松竹座!!仕事師たちに支えられた11日間18公演

 「音響さん、どうぞ」。トランシーバーを通して聞こえる年季の入った低い声を合図に、幻想的な曲が静かに流れ始める。同時に、舞台裏でスタンバイしている十数人の大道具さんたちが音も立てずにゆっくりと動き出した。さらに、ひとつ間を置いてから「GO!」のかけ声。今度は、7間半(ななけんはん。1間=約1・82メートル)もある舞台上の大きな盆がゆっくりと回り始めた。

 声の主は、長年、大阪松竹座で舞台監督を務める木下三郎さん。ストップウオッチ片手に、寸分違わぬタイミングで次から次へと場面転換してゆくのだ。盆の動きに合わせて、七つあるうちの中央部分の三つの「迫(せり)」が下がり始め、その上に組まれた高さ13尺(約5メートル)の「ホルモン焼き屋」の家屋が回転しながら沈んでゆく。

 動き出してから26秒後にステージの下にスッポリと収まった。薄暗いブルーライトのなか臨場感あふれる光景を、1000人を超す満員の観客が固唾(かたず)をのんで見守っている。

 大阪松竹座さよなら公演「じゃりン子チエ」は、11日間18公演の日程を無事終えた。公演はすべて完売。

 大阪・西成を舞台にした不朽の名作を懐かしむオールドファンのみならず、今回の上演で初めて内容を知ったという若い世代も、主人公・チエを演じた澤井梨丘さんの躍動感あふれる演技に引き込まれたことだろう。脇を固めるベテランの役者に支えられ、大劇場初体験の私も「お好み焼き屋のオッサン役」で舞台に立たせてもらった。

 今回、スタッフ・出演者が一番気を配ったのは、作品のもつモチーフを裏切らないこと。漫画やアニメで多くの人に愛されてきただけに、演劇を見てイメージが違ったと思われたくない。さりとて、生身の人間の息遣いこそが舞台の魅力。演じ手はそこに心血を注ぐ。

 「じゃりン子チエ」の世界観を忠実に描きつつも、松竹座の舞台ならではの立体的な見せ方で観客を楽しませたい!それが演出担当・村角太洋さんの狙いだったと思う。一カ月近く、稽古場でシーンごとに細かい稽古を重ね、終盤は舞台セットを使った本番さながらの動きの確認となるのだが、そこで度肝を抜かれたのが冒頭説明した圧巻の舞台転換と裏方さんたちの仕事ぶりである。

 ホルモン屋での日常のやりとりから、小鉄とアントニオJr.の決闘シーンに至るまで、セットをリズミカルに駆使して「見せる転換」をしていくことで、舞台版「じゃりン子チエ」が完成したのだ。

 初日の舞台を観劇した原作者・はるき悦巳さんの『もっと観ていたかった』との感想を伝え聞いたときは、関係者全員が歓声を上げ、その言葉を胸に、自信を持って千穐楽まで走りきることができた。

 早くも再演の声が上がっているらしい。関わったものとしては誇らしい思いだが、既に松竹座の閉館は発表されている。道頓堀の中にネオルネサンス様式のたたずまいを残し、最大30尺のせりを要する舞台装置を持つ大劇場は、もはや一企業の施設というよりは「大阪の公共財」と呼んでいいと思うのだが、このまま姿を消してしまうのだろうか。願わくば、あまたある上方の人情ものや滑稽噺しの令和版をこの舞台で観てみたい。(元関西テレビアナウンサー)

 ◇山本浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。

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