【ヤマヒロのぴかッと金曜日】どうなる!?役者ヤマヒロ 「じゃりン子チエ」の世界観に包まれて

 「コラ~ッ、待たんかい!」「おっちゃんらも一杯飲んでいったら?お金はもらうで!」

 稽古場にこだます威勢の良い大阪弁。

 松竹創業130年大阪松竹座さよなら公演『じゃりン子チエ』(11月15~25日)の上演が近づき、稽古場は日ごとに熱気を帯びている。チエ役は連続テレビ小説『ブギウギ』で主人公の少女時代を演じて話題になった澤井梨丘さん。テツ役は映画『パッチギ』をはじめ数々の映画、ドラマに出演した波岡一喜さん。

 他にも、隙あらばダジャレを言いたがる赤井英和さんや、誰よりもおバァはんのカツラが似合う桂南光さん、すっかりお母さん役が板についた三倉茉奈さんら、大阪出身の出演者たち。松竹新喜劇はじめベテランの役者が脇を固める。

 お好み焼き屋のおっちゃん役で出演する私も、大阪弁はお手のもの。標準語でニュースを読むよりやり易いだろうし、じゃりン子チエのストーリーは全部頭の中に入っているから大丈夫と二つ返事で引き受けたものの、稽古が進んでもなかなか壁をぶち破れない。プロの役者さんの流れるような演技に混じって、いまだ台詞(せりふ)の文字が頭の中に浮かんで離れないのだ。おかしい。これまでに挑戦した芝居よりはセリフの量も少ないはずなのに、自然にやろうと思えば思うほどぎこちない動きになってしまう。大勢のプロの役者さんの動きを意識しすぎなのだろうか。

 「犬を探しながら登場するんやから、正面を向くのでなく目線を下げたほうがエエよ」。40年来の付き合いのある紅萬子さんが休憩中にこっそりささやいてくれた。そうか、なるほど!これまで、台詞を間違えずにそれなりの顔を作ってなんとなく雰囲気を出すことだけを考えていた。そうではない。場面場面でお好み焼き屋のおっちゃんはどんな気持ちで立っているんだろう。物語の中にある状況の中で、おっちゃんはどう溶け込んで人と話したり振る舞ったりしているのか。

 以前、誰かに教わった芝居の基本的なことをすっかり忘れていた。普段の会話でも言い淀んだり、かむことはあるのだ。そんなことより、もう一度台本を読み込んで『情景』を大切にしよう!そう考えたら、少しは吹っ切れた。

 とはいえ、連日早起きしてラジオの本番をこなし稽古場に直行する日々だ。稽古の出番を待ちながら椅子に座っていると、うつらうつらしてくる。ハッと目を開けて周囲を見渡す。「ヨシ、大丈夫や。誰にも気づかれてない」

 ひと安心していると、演出の村角太洋さんが「ハイ、じゃあ次は〇〇のシーンですから、おジィはんとおバァはん、お願いします!」…。隣に座ってる南光さんの返事がない。見ると、やっぱり目を閉じている。「南光さ~ん」でなく「おバァは~ん」と呼ばれたので反応できないのだろう。おジィはん役の佐藤武志さんが、役になりきり「おバァはん、出番でっせ!寝てしまいましたんかいな?」。全員の目が注がれる。パッと目を開けた南光さん。「ちゃいまんがな。目ェつぶって、イメージ作ってましたんや…」

 さすがである。本番まであと半月、もがきながらも楽しい時間を過ごさせてもらっている。(元関西テレビアナウンサー)

 ◆山本 浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。

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