伊東市長の学歴詐称疑惑 検察の不起訴判断だけでは政治的・道義的責任を果たしたとは言い難い【弁護士の見解】
学歴詐称疑惑などが問題視され、早期の辞任を発表している静岡県伊東市の田久保真紀市長(55)が8日、市役所内で市職員に謝罪した。市によれば、問題が発覚した今月2日以降、市への苦情電話が1150件超に上っているという。田久保氏は東洋大を除籍処分になったことを認めた上で、7日の会見では自身が所持する卒業証書を「本物だと思っている」と発言したが、東洋大は8日、デイリースポーツの取材に対し、除籍学生への卒業証書授与の可能性を否定した。
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7日の記者会見を受け、「弁護士法人ユア・エース」の正木絢生代表弁護士が取材に応じた。
田久保氏は東洋大の「卒業証書」等を地検に提出し、判断を委ねるとした。正木氏は「一定の正当性は認められる」とした一方で「卒業証書が本物かどうかという市民の関心や政治的説明責任とは別問題」とも指摘。「法的手続きとしては筋が通っていても、市民の納得を得るうえでは十分とは言えないでしょう」と疑問視した。
市民から公選法違反の疑いで刑事告発されたが、「出馬時点で虚偽の学歴を公式な選挙公報や政見放送等に用いていた事実がなければ、公選法違反として立件される可能性は低い」と分析。「今回問題となっている『卒業証書』が出馬後、あるいは市長在任中に関係者に提示されたものであるならば、公選法違反の構成要件に該当しない可能性が高い」とし、検察が真贋を重点的に捜査しないことを示唆した。
私文書偽造罪、私文書行使罪についても「他人を欺く目的があって文書を偽造・行使したかどうかが争点。仮に『思い込みで本物だと信じていた』とされれば、故意の立証が難しく、不起訴や起訴猶予となる可能性が高い」と解説。「検察は起訴しない理由を含め、卒業証書の真贋についても一切明かさないことが通例。検察が判断するから真実が明らかになるとは言い切れない」と、こちらも疑問視した。
その上で、不起訴処分となった場合でも「証拠不十分、違法性の軽微、情状など複数の理由で判断されるもので、あくまで起訴されないことを意味し、無実を意味するものではない」と強調。「市長という公職にある人物が疑いを持たれている事案では、法的責任の有無以上に『市民に対する説明責任』や『政治的な誠実性』が厳しく問われる。検察の不起訴判断に寄りかかるだけでは、政治的・道義的責任を果たしたとは言い難い」と苦言を呈した。
