【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】五明樓玉の輔“手ぬぐい脳”で暮らす日々
御慶。元日に木戸を開ける寄席は、10日までを初席、11日から20日を二之席と呼び、正月興行が続く。
この間、新年のあいさつ、年賀替わりに芸人同士でやり取りされるのが手ぬぐい。落語家が使う道具のひとつで(もうひとつは扇子)、紙入れや文、百人一首の読み札、焼き芋になったりする。
手ぬぐいに一家言を持つ落語界屈指の目利きと言えば、五明樓玉の輔(57)。春風亭小朝(67)の高弟で、落語協会(柳亭市馬会長)の理事も務めている。
「これまで約60本の手ぬぐいをデザインしてきました。正月用には毎年300枚ぐらい準備して、お囃子さん(出囃子を担当する方)、前座さんにも配ります」
「ただ好きだった」という理由で、手ぬぐいの沼に没。「噺家のてぬぐい大賞」を主催し、YouTubeでは「噺家の手ぬぐいチャンネル」を開設。書籍「噺家の手ぬぐい」(日東書院本社)も出版している。
芸人に頼まれるばかりではなく企業のノベルティー手ぬぐいを作ったり、NHK「美の壺」に出演した際は、司会の草刈正雄(70)用に作り、「気に入ってもらいました」という実績も。「街を歩いていても頭の中はいつも手ぬぐいのこと。壁の柄とかポスターのデザインとか気になれば写真を撮ります」と、常に“手ぬぐい脳”で暮らす日々だ。
自宅には千枚以上のコレクションがあり、靴の空き箱で「主要なものはあいうえお順に」管理している。
なかでもお宝は名人古今亭志ん朝の二つ目時代「古今亭朝太」の手ぬぐいだ。「抜てきで真打ちに昇進したので、普通10年ぐらいある二つ目時代がわずか3年しかないんです。希少なものは使いにくいですが、普通にハンカチやテーブルクロス、お風呂で使ってもらうといいと思いますよ」。
◆渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。
