昨年１１月に老衰のため８８歳で亡くなった歌舞伎俳優の坂田藤十郎（本名林宏太郎＝はやし・こうたろう）さんを偲ぶ会が２８日、都内のホテルで開かれた。役者仲間をはじめ、高円宮妃久子さま、元首相の小泉純一郎氏、森喜朗氏、福田康夫氏ら１０００人が参列。女優で参院議長も務めた妻の扇千景（８８）は、「皆さんに愛され、芝居好きの芝居の人生だったと思います」と天国の伴侶を悼んで、涙を浮かべた。

　５０００本のカーネーションやバラなどで彩られた祭壇の中央で、藤十郎さんは胸に文化勲章を輝かせ、柔らかな表情を浮かべていた。２００９年に受章した際、この日の会場となったホテルで記念撮影したものから選んだ遺影。亡き夫の視線を感じながら、扇は長男の中村鴈治郎（６２）、次男の中村扇雀（６０）と会見した。

　祭壇に置かれた遺骨は自宅で管理していたが、「明日、納骨しようと決めてます。余計にさみしくなります。家に遺骨でもいいからいてくれればうれしいですけど、覚悟を決めなければ」と報告。２９日に神奈川・鎌倉霊園に納骨するという。

　戒名は「妙藝院殿藤久日宏大居士（みょうげいいんでんとうきゅうにちこうだいこじ）」。芸道を一心に歩んだことから『藝』の文字に加え、芸名と本名から１文字ずつが入れられた。「主人には『あまり早く迎えに来ないでね。することがいっぱいあるからね』と言ってるんですけど、どうなりますか…」と寂寥感をにじませた。

　偉大な父が２３１年ぶりに復活させた大名跡に、鴈治郎は「『坂田藤十郎』になりたかったのが１番で、そこに突き進んで全うした人」と畏敬の念。扇雀も「家族が継承していくのは責務のひとつ。名前を守るのは宿命」と決意を示した。

　藤十郎さんは１９年１２月に腰を骨折。休演しリハビリに取り組んでいたが、昨年１１月１２日に永眠した。同１４日に密葬を営んだが、偲ぶ会はコロナ禍で約１年が過ぎての開催に。扇は時折涙をぬぐいながらも、「やっと皆さんにごあいさつできました」と梨園の妻として“最後のつとめ”を毅然と果たしていた。