【記者の視点】逆境乗り越えた2人の天才、完全燃焼を

 柔道男子66キロ級で、日本柔道史上初となる一騎打ちのワンマッチでの五輪代表決定戦が13日に東京・講道館で行われる。19年世界王者の丸山城志郎(27)=ミキハウス=と、17、18年世界王者の阿部一二三(23)=パーク24=の両者は10日、全日本柔道連盟(全柔連)を通じて最終決戦に向けたコメントを発表した。デイリースポーツ柔道担当の藤川資野記者が2人の戦いを振り返りながら、歴史的一戦の持つ意味をひもとく。

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 負ければ終わり-という“死線”をくぐり抜けた人間は強い。13日に行われる丸山と阿部の歴史的一戦は、2人の天才の激突であると同時に、互いに人生を賭して逆境をはねのけてきた同士だからこそ実現した、奇跡的な最終決戦と言える。

 昨夏の世界選手権の準決勝。日本武道館の畳で、阿部の強烈な背負い投げをしのいだ丸山が右膝を負傷したとき、ああ、この五輪代表争いは終わった-。正直そう思った。しかし、それは凡人たる記者の早計。そこからの光景は衝撃的だった。

 右脚を引きずる丸山が逆に前に出続け、優勢のはずの阿部が気おされるように後ずさりする。天理大の先輩、大野将平(73キロ級五輪王者)よろしく“ノーガード”にもかかわらず相手に打たせないオーラを全身の毛穴から出した丸山が、ライバルを仕留めて五輪代表候補筆頭に躍り出た。

 鋭くキレる内股を武器に天才と称された丸山だったが、大学2年時の左膝前十字じん帯断裂という大ケガで棒に振った。4歳年下の阿部の台頭で東京五輪出場が絶望的だったが、18年アジア大会で2位に終わったのを境に“表情”が変わったように感じる。技術以上に執念でなぎ倒すような戦いを見せ始め、18年GS大阪以降国内外5連勝。「世界王者」として阿部に並んだだけでなく、風格まで漂わせるようになった丸山が代表レースで名実ともに有利と思えた。

 実際に規定上、昨年11月のGS大阪で丸山が優勝すれば五輪代表が決まるという状況だった。しかし、ここで逆に直接対決を制して待ったをかけた阿部が、ここから底力を発揮することになる。

 象徴的だったのが今年2月のGSデュッセルドルフ大会。序盤から動きは硬く、技も強引でかからない。追い打ちを掛けるように左手親指を負傷。いつ敗退してもおかしくない苦境だったが執念で勝ち上がり、丸山との最終決戦に望みをつないだ。阿部らしくない泥くさい優勝劇だったが、だからこそ男として一皮むけた強さを感じた。

 17、18年と世界選手権を連覇し、代表レースを先行していたのは言うまでもなく阿部だった。高校2年だった14年GS東京大会で最年少優勝を飾るなどブレーク。16年夏のリオ五輪出場も現実味を帯びたが、15年講道館杯でのまさかの準々決勝敗退で消滅。その時の相手が、丸山だった。

 今となっては因縁と呼ぶほかないこの初対戦も含め、両者が対戦した過去7戦のうち延長戦に突入したのは6試合で約86%。一本決着となったのはわずか1試合のみだ。

 日本柔道界は国際大会の実績など総合的に五輪代表を選考してきたが、両雄が完全に並んだ今、“人事”が入り込む隙間はない。どちらが東京五輪の畳に立ったとしても金メダル最有力候補であることは確実。2人の魂が完全燃焼することだけを願いながら、世紀の一戦を見届けたい。

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