阿部詩、圧巻連覇 本番舞台で強さ魅せた…準決でリオ王者撃破&決勝一本勝ち
「柔道・世界選手権」(26日、日本武道館)
女子52キロ級は、前回女王で世界ランキング3位の阿部詩(19)=日体大=が決勝でリオデジャネイロ五輪銅メダルのナタリア・クジュティナ(ロシア)に開始30秒、袖釣り込み腰で一本勝ちし、2連覇を達成した。準決勝では初対戦のリオ五輪女王、マイリンダ・ケルメンディ(コソボ)を撃破。11月のグランドスラム(GS)大阪大会も制すれば、東京五輪代表決定が有力な状況となった。
本命ヒロインが武道館の温度を瞬間的に上げた。阿部詩は、最後は最も得意としてきた袖釣り込み腰で絵に描いたような一本勝ちを収め、2連覇を達成。「昨年と違って連覇の不安やプレッシャーがある中で達成できた。すごくうれしい」。兄一二三が敗れた直後だったが、「お兄ちゃんが負けたのは悔しいが、気持ちを切り替えて自分の戦いに集中した」。ショックを振り払う胆力も見せつけた。
準決勝は五輪女王との待ちに待った一戦で“大人の柔道”を貫いた。左釣り手で奥襟を持ってくる女王の屈指のパワーに攻めあぐねたが、ずっと対策を練ってきただけに想定済み。無理に投げにいって隙を与えたりはしない。粘り強く延長戦に持ち込むと、崩れ際にかつては苦手だった寝技に持ち込み、ガッチリ押さえ込んで相手の心をへし折った。
「一番戦いたかったし、勝ちたかった選手。ケルメンディ選手に勝ったことが一番自信になりました」
五輪女王と初めて対峙(たいじ)したのは高校1年での国際合宿。乱取りに応じてくれたが、本来の左組みとは逆の右組みでやってきた。完全な子供扱いだ。
「(相手に)『かわいいね』と。自分がまだめっちゃ子供だったんで。笑顔で『お願いしまーす』っていったら、『いいね』みたいに言われて(笑)」
ただ、その時は女王も予想しなかっただろう。目の前のあどけない少女が恐るべきスピードで成長を遂げることを。この日敗れたケルメンディは「彼女は世界最高の選手。東京五輪でも一番のライバルになる」と認めた。
大人の女性にも近づいている。月に一度髪を短く切る習慣は変わらないが、高校時代と違って前髪は伸ばしており「大人らしくなろうと思って」とオシャレにも気を配る。大学の入学式に合わせて、ネイビーのシックなパンツスーツを仕立てた。「みんな黒を着るかなと思って違う色にしました。スカートはちょっと恥ずかしかったので」。ジャケット裏地の柄は兄一二三のスーツをマネたというこだわりぶりだ。
1年後と同じ舞台で真価を証明し、金メダル最有力候補は疑いなくなった。「あとは東京五輪の表彰台の一番高い所に立つだけ」。20歳で迎える祭典は、阿部詩のための舞台になる。