香川・中村、一度辞めたからこそ分かる、好きなことに全力で取り組める喜び

 【香川・中村道大郎内野手】文=高田博史

 香川はビジターで開幕戦を迎えている。対徳島前期1回戦(4月1日、鳴門・オロナミンC)八回表、中村道大郎が、きょう2本目となる安打を左翼線に放つ。

 二塁を回ったところで雄叫びを上げた。この試合は負けるわけにいかない。

 「オフシーズン、徳島戦で打つことだけを胸に秘めて練習してたんですよ。去年、負けて終わってるチームに、最初から負けるっていうのも嫌なので」

 昨年9月、後期終了間際に選手登録された。徳島に敗れたチャンピオンシップ4試合を含めても、計8試合しか出場していない。

 15年、遊撃手としてプレーした日体大を卒業して、飲食店を経営する企業に就職する。店長になることを目指し、横浜の居酒屋で料理を作っていた。

 だが、働いて2年になるのを前に退職する。自分は料理が好きじゃない。この世界では、本当に料理が好きなヤツに勝てないと思ったからだ。

 故郷・福岡に戻り、トライアウトに備えていたころ、友人に誘われて参加した草野球で酒井大介(元長崎、香川)と出会う。

 「香川のテスト、受けてみろ。連絡してあげるから」

 2日間、練習参加したあと、途中入団が決まった。

 「とにかく野球をやれてるのがホント楽しいですよね。あと、応援してくれる人に勝ち試合を見て帰ってもらいたいって気持ちがすごくあって。喜んで帰っていただきたいんですよね」

 開幕前にBリーグ・香川ファイブアローズの試合を見に行ったことがある。ゴールが決まるたびに手をたたいて喜んでいる、車いすのおばあさんがいた。応援するチームが勝つと、こんなに気持ちがいいのか。自分もプロとして、お客さんをこういう気持ちにしなくちゃいけないと痛感した。

 「僕のプレースタイルは、気持ちを前面に出してやるタイプなので、そこは変えずに。1つのプレーで流れを変えられればな、と思います」

 一度、辞めたからとか、もう25歳だからとか関係ない。もう一度、好きなことに全力で取り組める。その喜びは、一度野球から離れたからこそ分かる。

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