「野球は投手力」は今や昔 カープ3本柱の変遷

 元中国新聞記者でカープ取材に30年以上携わった永山貞義氏(72)がデイリースポーツで執筆するコラム「野球爺のよもやま話」。広島商、法大でプレーした自身の経験や豊富な取材歴からカープや高校野球などをテーマに健筆を振るう。

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 今年のプロ球界はセ・リーグがヤクルト、パ・リーグがオリックスと前年の最下位チームが優勝と、競馬なら万馬券といえる大穴配当の結果で終了。迷走した戦いの末、4位にたどり着いたカープは結局、投手陣の不調が最大の敗因となったと思うので、今回はそれに関する話をしてみましょうか。

 昔。といっても、わずか10年ほど前の昔。まだ現場へ取材に出向いたころと比べて、今の野球は随分と変わってきた気がする。特にそう思えるのが先発投手の役割。それは規定投球回数の達成者数を見れば、明らかではなかろうか。セ・リーグを例にすると、2011年に16人、12年には20人もいたものが18年には8人と減り始め、今年もクリアしたのは9人にとどまった。これは野球の進化に伴う投手陣の分業制の進展が招いた現象の一つと見ていいのだろう。

 昔。私がまだ野球少年だったころの半世紀以上も前の昔。投手陣はこのような総掛かりではなく、「大黒柱」一人が背負って立つ時代だった。この現象を端的に示したのが61年の稲尾和久(西鉄)と権藤博(中日)である。

 「神様、仏様、稲尾様」とファンから拝まれた稲尾は何と42勝。「権藤、権藤、雨、権藤」とその連投に次ぐ連投を唱えられた権藤は35勝。ともにチーム勝利数の半分か、それに近い白星を稼ぎ、上位に導いている。当時の投手陣はこうした大黒柱に、あと2本の支柱を加えた「3本柱」を形成できれば、十分に優勝を狙える陣容だったといえよう。

 カープにこんな「3本柱」が最初に確立できたのは長谷川良平、大田垣(備前)喜夫、松山昇の右腕がしなった55年。それは「球団史上最強の3本柱」と言っても過言ではあるまい。長谷川が54試合に登板し、最多勝となる30勝、大田垣が45試合で13勝、松山が31試合で10勝。この数字が持つ重みは一見しただけでは分からないが、よく分析してみると、それがどれほどのものだったかが見えてくる。

 まず勝ち星の3人の合計がチーム勝利数58勝のうちの53勝。率にして9割以上ものウエートを占めたこのトリオを「強力」と言わずして、何と言おう。登板数ともなると、これがまた圧巻の3人合わせて130試合。同年のチーム試合数が同数だから単純に割り算すると、3人が交代で毎試合、投げていた計算になる。これほどの「大黒柱」と「2支柱」を加えた「3本柱」を擁しながら、4位にとどまったのはもちろん、他の投手が4人で5勝しか挙げられなかったからに他ならない。言い換えれば、極端な投手不足ゆえに生じた「強力3本柱」だったわけ。これも球団草創期の悲劇の一つだろう。

 真の「3本柱」ができたのは75年。外木場義郎が20勝、池谷公二郎が18勝、佐伯和司が15勝と72勝のうち53勝を稼ぎ、初優勝に貢献したとあれば、オールドファンにとっては忘れ得ぬ年に違いない。その後、北別府学、大野豊、川口和久のトリオが長い間、タッグを組み、強い時代を構築。15年には黒田博樹、前田健太、ジョンソンというメジャーゆかりの「3本柱」も全国の赤ヘル党を大いに沸かせた。

 こうした時代を経て今年は大瀬良大地、森下暢仁、九里亜蓮が「3本柱」を形成。このうち大瀬良、森下が全開に至らなかった中、他球団のそれと比べて遜色ない勝ち星だけは挙げた。しかし、課題だった先発陣の支柱が不足。前半戦は強化したはずの中継ぎ陣の乱れも追い打ちをかけた。そして「ピストル打線」であるがゆえの得点力不足に加え、戦時中に軍部政権が訴えた「ぜいたくは敵だ。足らぬ、足らぬは工夫が足らぬ」との標語が浮かんできたほどのベンチの工夫不足。前半戦のこうした不足がマイナス要素となって、結局は戦力以下の成績にとどまったと見てもいいのだろう。

 これらを総じて結論づけると、「野球は投手力」というのは今や昔らしい。チーム打率と防御率がリーグ3位ながら、ダントツの得点力を誇ったヤクルトの優勝を見ると、現代は采配に加え攻守とも安定した力がないと、勝ち抜けない時代だということを、あらためて思い知らされた今年の戦績結果である。

 ◆永山貞義(ながやま・さだよし)1949年2月、広島県海田町生まれ。広島商高-法大と進んだ後、72年、中国新聞社に入社。カープには初優勝した75年夏から30年以上関わり、コラムの「球炎」は通算19年担当。運動部長を経て編集委員。現在は契約社員の囲碁担当で地元大会の観戦記などを書いている。広島商高時代の66年、夏の甲子園大会に3番打者として出場。優勝候補に挙げられたが、1回戦で桐生(群馬)に敗れた。カープ監督を務めた故・三村敏之氏は同期。元阪神の山本和行氏は一つ下でエースだった。

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